雪の夜道を

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2021年7月24日

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「雪の夜道を」久世朋子 「小説現代」2014年12月号より

どこで知ったのだろう。何かの雑誌かもしれない。久世光彦の奥さんが小説を書いて、それがとても美しい文章であるとどこかで褒めてあって、つい読む気になった。この人は以前に「テコちゃんの時間」というエッセイ集を出しているし、「嘘つき鳥」の出版にも関わっている。

読んでみたら、まあ、たいへん。ろくな男じゃないと思ってた久世光彦、やっぱりやらかしてました。笑っちゃう。吉行淳之介が亡くなったあと、正妻じゃないけど長年連れ添った宮城まり子さん以外の愛人さんが出てきて、「一番愛されてたのは私でした」って、宮城まり子の悪口満載の本を出してたのを思い出す。あれもひどかったよねえ。

久世光彦が急逝したあと、認知もしていない六歳の男の子がいたと判明したお話。DNA鑑定で死後認知するに至ったそうだ。奥さんが怪しいと思ってた人との間に生まれてたんだって。奥さんはずっと日陰の身で、やっと籍を入れたその二年後にはその子が生まれていて、なんと駅を隔てて反対側に住んでいたって言うから凄い。生活費も入れて、入園卒園運動会なんかも全部出てたそうな。ひょえー、ゲスの極み乙女なんてかすんじゃう。

下卑た発言でごめんなさいね。私は久世さんみたいな無頼派を気取る文化人が嫌い。妻がいて、他の人を好きになっちゃうのはまだしょうがない。人の心を鎖で縛ることは出来ないから。でも、子ども作っちゃうって、何。認知もできない、それを妻に言い出すことも出来ない、コソコソ隠れて愛情を注いでいる格好だけは取るって。俺ってだめなやつだよな・・・と憂い顔して、逃げまわって死んじゃって、バカみたい。

久世光彦の小説には、妊娠したと聞いて女を捨てた話とか、ある日突然赤ん坊を抱いてあらわれた女の話なんかがあったっけ。まあ、それってホントの話だったのね。小説がお上手なわけじゃなくて、「実録!久世光彦」だったわけね。

美しい昭和の幻影を描く、美しい文体の作家の真実の姿はここにあった・・・・。奥さん、怒っていいよ。骨壷をひっくり返して、ひっぱたいていいと思う。たいへんだったね。

2016/4/26