テコちゃんの時間

テコちゃんの時間

2021年7月24日

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「テコちゃんの時間」 久世朋子 平凡社

「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」など向田邦子作品の演出を多く手がけ、晩年は著作も多かった久世光彦の妻による追悼エッセイ集。

久世光彦という人は、伊集院静に似てる、と思っていたら、お葬式で弔辞を読んだのがまさにその伊集院静だと知って、なるほど、と思った。人ったらし、「少年の心を失わない」博打打ち、女好き。共通点が多いよなあ。

この久世朋子さんは、久世光彦がドラマの演出家としてブイブイいわせていた頃、家庭がありながら、娘ほどの年の女性に手を出したと大騒ぎになったお相手である。そのスキャンダルは、なんとなく覚えている。確か、樹木希林が絡んでいたのだっけ。姪だと偽って、長谷川和彦の映画にチョイ役でねじ込んだり、自分のドラマのキャストに入れたりしているうちに、妊娠させちゃった、って展開だったような。

その当時のことが、この本の中で本人側から描かれている。ふーん、そうだったのね~、とは思うけど。若くて世間知らずのおねーちゃんを、いい大人が、いいように扱って、自分の家庭も相手の人生も狂わせちゃって、「しかたがないことです」とうそぶいている様子は、たとえ思い出話だとしても、私には美しく思えない。ええ、わたし、つまんないおばちゃんです。

少年の心を失わない、とか言いたがる男は、どうしてこんなに無責任で人に迷惑をかけて、平然としていられるのだろうな、と私は思う。伊集院静にとっての夏目雅子も、久世光彦にとっての久世朋子も、本人たちがそれでいいと思っているんだからいいのだけれど、なんだかなあ、と思ってしまう。

2012/9/29