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「逮捕されるまで」 市橋達也 幻冬舎
図書館の「今日帰ってきた話題の本」コーナーで発見。興味を持ったことはなかったのに、つい、ふらふらと借りてしまった。犯罪者の告白本って、実は私のツボらしい。
しかし、この本は、ほとんど何も書いていないに等しかった。逃げた話だけ。顔を変えるため、自分で自分の鼻を縫ったり、唇を切ったりして、痛そうなだけ。四国をお遍路さんしたら、リンゼイさんが生き返るかも、と考えて歩いて回ったり、沖縄の離島で狩猟生活をしたり。でも、内省というものが、殆ど無い。
僕には感謝という感情がない、とだけ、書かれている。もうひとつ、印象に残っているのは、みんなに好かれるにはどうしたら良いだろう、と女友達に相談して、無理だよ、と言われた思い出話だ。自分の内側を覗いた話は、それくらいしかない。後はただただ、日々、どのように逃げたか、どのように過ごしたか、だけが描かれている。
なぜ書いたのかなあ、この本を。幻冬舎さんはさすがだ。出せば売れるものね。でも、これを書くことで、彼は何を得たのだろう。彼の中に、なにか新しいものができたとは思えない。
彼を形作ったものはなんだろう。感謝という感情がない、と言い切るのは何故だろう。みんなに好かれたいと思ったことはあったのだな。それは、諦めてしまったのだな。なぜ、好かれたかったのだろう。彼が外国人女性に惹かれたのは、何故だろう。そして、殺してしまったのは・・・。
ポッカリと空いた穴を覗きこんだだけ、のような虚しさがのこる。人を殺した人を、刑務所で服役させて、あるいは死刑にして殺してしまって、そこから何が得られるのだろう、とわたしは考える。なぜ、どうして、そして、どうすれば。そこが、私は知りたいのに。
空虚感だけがのこる本だった。
2012/7/31