道行きや

2021年7月24日

62

「道行きや」伊藤比呂美 新潮社

「たそがれてゆく子さん」以来の伊藤比呂美である。伊藤比呂美は長い間ずっと読み続けてきたので、その文章はもう私の血肉に染み込んでいるような気すらする。赤ん坊が生まれて育って、男とあじゃこじゃがあって、親が老いて、そのすべてをずっと見ていて感慨深い。

この本(?)は、電子書籍で読んだ。電子書籍で読むと、本を読んだという実感が薄い。が、本なのだよなあ、きっと。

比呂美さんは東京の早稲田で教鞭をとりながら、熊本で暮らしながら、アメリカの子どもたちを心配し、かつアメリカの永住権を保持しようとして忙しい。外国の男と恋をして子供を生むというのは面倒くさいものなのだ、大変なのだ。その合間に老いた犬を飼い、教え子の若者たちに何かを伝え、生きるって面倒くさい、ごちゃごちゃしている、でもこのぐっちゃぐちゃが人生だよなあ、と改めて思う。

「五足の靴」ばりに教え子たちが九州を旅する話はやっぱり面白い。ああ、旅っていいよなあ、と思う。どこにもいけない今だから。余計に思う。九州に行きたい。ゆっくり回りたい。ああ、いつになったら。

伊藤比呂美を、これからもずっと読む。彼女は生きている限り書くだろうし、書く限りは読み続ける。一緒に生きてきた、ような気がする。

2020/8/9