「五足の靴」をゆく

2021年7月24日

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「「五足の靴」をゆく 明治の修学旅行」森まゆみ 平凡社

 

明治四十年、34歳の与謝野鉄幹は、木下杢太郎、平野萬里、北原白秋、吉井勇を連れて南に旅立った。四人はみな二十代前半の若者である。彼らは雑誌「明星」の歌人であり、旅の途中で吸収の同人や読者と交流し、明星に記事を載せる目的もあった。また、彼らは南蛮文学やキリスト教伝来に興味をもち、その史跡を訪ねることに多くの時間が割かれた。旅は、一ヶ月に及んだ。
 
五足の靴が五個の人間を運んで東京を出た。五個の人間は皆ふわふわとして落ち着かぬ仲間だ。 
       (引用は『五足の旅』岩波文庫 より本書孫引き )   
 
天草四郎や島原の乱の史実は多くの文学作品に描かれたが、その発端はこの「修学旅行」にあったらしい。そこから影響を受けて、芥川龍之介も「奉教人の死」などキリスト教を題材にした作品を書くに至ったという。
 
この本は作者が『五足の靴』を元に、彼らの足跡をたどって実際に同じ旅路を行った記録である。彼らの宿泊を記録してある宿や記念の石碑などが残っているところもいくつかあった。まだ、足跡が辿れるほどの歴史である。
 
私は旅が好きなのだが、それは、とどのつまり、歴史が好きだということなのかもしれない。その土地々々の遠い記憶や、昔の出来事が今にどの様に繋がり、どの様に残されているか、にいつも惹かれる。この本に描かれた旅は、まさしく私の好きな旅であり、読んでいるうちに、九州に、とりわけ長崎に行きたくてたまらなくなった。
 
文章自体は、歴史的事実の列挙が多いために、読みにくい部分も多かったが、それを超えると非常に興味深いものがあった。

2019/1/11