おすもうさん

おすもうさん

2021年7月24日

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「おすもうさん」  高橋秀実  草思社

不祥事続きで、今や息も絶え絶えの相撲。そもそも、相撲って何だ?という疑問から出発したのが、この本。これが、読めば読むほど、相撲ってなんなの?と分からなくなってくるから、面白い。いや、面白がっていいのか?

相撲の謎を解くため、作者は、相撲部屋に行ってインタビューしたり、実際に相撲教習所に体験入所してまわしを締めたり、ぶつかり稽古をしたり、講義を受けたり。さらに、実に数々の文献を調べている。そのひとつひとつが、驚くほど意外な事実に満ちている。

相撲部屋で相撲取りをやっている人の大半は、本当は相撲取りになんてなりたくなかった、とか、相撲の稽古は、実はぼーっと休んでることが多い、とか、横綱になりたい、なんて言うもんじゃない、とか。

いや、それどころか、相撲は、「国技と称せられている」のであって、「国技」と定められているのではないらしい。そもそも、国技館を立てたときに、板垣退助がうっかり「国技館」と名づけてしまったから、それで、どうやら相撲って国技らしい、国技って呼んじゃえ、と後付で言われ始めたなんて、あなた、知ってました?

土俵の神様も、昔はたくさんいたんだけど、GHQに文句つけられそうだから、適当に減らした、とか、宗教儀式じゃなくて、競技なのである、と印象づけるために、土俵をちょっと広くしてみた、とか、案外、いま行われていることは、その場の思いつきで、適当に決められたものだったのだ。

作者は、いろいろなしきたりや様式について調べて回るのだが、どこでも「なぜだかは聞かないでください」「理由なんて、ないす」と言われ続ける。行事も、呼び出しも、土俵の掃除も、色々なしぐさも、理由はない、ただ、そういうものだ、とされているだけ。そして、なんと、相撲道に関する書物は、ほぼ、ないのだ。伝統と言われているものの根拠となる書物、文字に起こされたものはなく、ひたすら、口伝なのだ・・・。

相撲道とか、精進とか、色々言ってるけど、実は割に適当にやってることだったのね、と読んでいて思ってしまう・・のだが、それは、コアな相撲ファンや、相撲に真剣に取り組んでいる力士さんたちには、失礼なことになっちゃうのだろうか。

だからといって、作者は、全然相撲をバカになんてしていない。不祥事にめげずに、頑張って欲しい、とエールを送っている。送り方が、なんとも膝の力の抜けた不思議なものになっているのが、この作者の持ち味だというだけであって。

2011/6/1