暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて

暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて

2021年7月24日

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「暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて」

アーシュラ・K ・ル=グウィン 河出書房新社

 

「闇の左手」「ゲド戦記」の作者、ル=グウィンの晩年のエッセイである。表題は、ハーバード大学が同窓会を前にして彼女に送ってきたアンケートの質問「余暇には何をしますか?」への答えである。このアンケート一問一問への彼女のコメント、辛辣な評価はそれ自体が芸術的とさえ言えるもので、八十を超えてなお極めて明晰であり続ける彼女の賢さが明白に示されている。
 
「年齢は気持ちが決める」というポジティブシンキングを彼女は痛烈に批判する。「弱虫には、年寄は務まらない」というポスターに対して「若いものには、年寄は務まらない」とするがいいだろう、と笑う。私の老齢が存在しないということは、私の人生が存在しないということだ、と彼女は言う。その明晰さ、賢さ、正しさ。
 
年老いて一人暮らしをする母を、私は月に一回、泊りがけで訪ねる。その行きがけの車中で読んだこの本は刺激的で気づきに満ちている、とつくづく思った。若いものが年寄りを若く見えると褒め称えることのなんと傲慢なことか。年齢は人を衰えさせる。それを受け入れずに、どうしようというのか。
 
が、その一方で、彼女は雄々しく日々を送り、猫と戯れ、鋭く社会を見つめ、分析し、批判する。アメリカの知性とはこのようなものであったのだ、とトランプ以前の状況を懐かしく思い出したりもする。
 
最後まで賢く誇り高くあること。私にどこまでできるのだろうか、と下を向きそうな気もするが。しかし、こうした女性がいた、ということは、私を、私達を勇気づけてくれる。

2020/11/16