生、死、神秘体験

2021年7月24日

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「生、死、神秘体験【立花隆対話篇】」立花隆 書籍情報社

「知の旅は終わらない」から派生して読んだ本。1994年のものだから、古いなあ。内容も、古くなっている部分が多々ある。だとしても、非常に興味深かったことは間違いがない。

序論で立花隆は自分が一貫して人の生と死の問題に関心を持ってきたと語っている、より正確に言えば、一貫して人間存在というものに関心を持ってきたという。それは、人間としての見当識を得たいということである、と説明されている。見当識とは医学上、意識レベルの低下を疑われる患者に対しての質問「ここはどこ?」「あなたはだれ?」「いまはいつ?」への解である。住所と名前と日時を答えるのが一般的である。が、ここはどこ?と突き詰めれば、宇宙の中の地球という存在を問うこととなり、今はいつ?は無限の時の流れの中のどこに位置しているかという答えるすべのない問いになり、あなたは誰?もまた、生物学、遺伝学、物理学などを駆使しても永遠に正しく答えられない問題となる。そして、それは「生とは何?」「死とは何?」という問いに繋がっていく。

なるほど、そう説明されると、一見あちこちに飛び回っているように見える立花隆の研究の繋がり、一貫性が見えてくる。

そういった前提の元、立花隆が知りたいと願い、調べ尽くし、専門家に取材した対話がここに記録されている。対話の相手は山折哲雄(宗教学者)、荒俣宏(小説家)、河合雅雄(サル学、動物生態学者)、養老孟司(解剖学者)、遠藤周作(作家)、カール・ベッカー(比較文化論学者)、河合隼雄(臨床心理学者)、岡田節人(生物物理学者)、中村雄二郎(哲学者)、中川米造(医学者)など。

対話はわかりやすく、ただ、さすがに対話だけに時に散漫にもなりながら、それでも非常に興味深いものであった。遠藤周作との対話にふるさを感じたのは、おそらくがんの告知や終末医療の話が多く、この面において現実が遥かに変容したという背景があるのだろうと思う。

今まで読んできた立花隆の著作のある種の答え合わせというか、なぜそこに至ったかがわかりやすく示されている本であるように感じた。

2020/7/13