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「なぎさ」山本文緒 角川書店
これは大人の成長物語である、と私は思う。
山本文緒が長くうつの闘病を続けているのは「再婚生活」を読んで知っていた。大丈夫かなあ、と不安になるような内容であったから、長いブランクの後この本が出た時、どうなっただろう、と怖いもの見たさのような気持ちもあった。
でも、大丈夫みたいだ。この本の中で、もうさして若くもない女性も、うだうだとひきこもりに近い生活をしていた若い兄ちゃんも、自分の気持を表現するのが苦手なオトコも、それぞれに少しずつではあるが、確かに成長し、変わっていく。それを温かく助けながら、その助けることで、自分たちも何らかの生きる力を受け取っているお年寄りが登場する。読み終えた時に、ああ、何とかなりそうだ、大丈夫そうだな、と思える程度に読み手も前が向けるようになる。
みんな、それぞれに色々な問題を抱えている。何でもなさそうに思えたり、単なる甘えやわがままのように思えても、それぞれの心のなかでは切実な、どうしようもなく乗り越えがたい障壁となっているものがある。それとどう向き合い、どう解決していくか。そんなかっこいい方法じゃなくて、だらだらと悩んだり逃げたり後ろを向いたりしながらも、それでも徐々に明日が見えてくる。そんなふうに思える本だった。
2014/8/31