みなさん、さようなら

みなさん、さようなら

2021年7月24日

「みなさん、さようなら」 久保寺健 幻冬舎

斎藤美奈子さんおすすめの本。

大きな団地で育った主人公が、小学校を卒業後、絶対に団地を一歩も出ないで生きていくことを決意する。
中学は団地の外にあったから、完全不登校となり、団地内のコミュニティセンターの図書室で自主学習をして過ごし、友達も全て団地の中。成長して、恋人も団地の中で作り、団地の中で仕事を見つけ、団地の中で婚約する。
そんな主人公に団地を出る日は来るのだろうか・・・。

第一回パピルス新人賞受賞作に加筆訂正したものだそうです。
って、そんな賞があるなんて知らなかった私。幻冬舎の賞ですって。

面白かったです。そして、ラストは不覚にも感動してしまった。
感動してしまったけれど、あとから考えてみると、破綻はあるなあ。

一晩考えてみて、これは、学校にいつまでもしがみつく学生の話みたい、とちょっと思いました。
学生生活って、居心地いいもんね、そして、なんか意義深そうで立派そうに自分でも思えるし、ずっと続けたくなる。それで、ずーっと学生をやりながら、学校の中で何とか仕事にもありついて、学内で恋人も作って、って大学生になったことがある人なら、一度は考えるんじゃないかな、そういう妄想物語的なところはあるのかも、と思ったのです。

それから、いや、これは、ちょっと規模大きめのひきこもり小説なのかも、とも思いました。自分の部屋じゃなくて、団地という大きな場所になっただけで、外に出ていくのを嫌がる、怖がる、避けている、逃げている小説なのかも、と。

でも、団地内部ではすごく一生懸命に積極的に頑張って生きているのだから、やっぱり学生生活かな。
いやどっちも違うかもしれないんだけど、そんなことを考えました。

団地から一歩も出ないのには、理由もちゃんとあるんですけどね。
しかも、それは現実のとある出来事とリンクしていて、それに気づいて、すっと現実に引き戻される感覚があって、そこで一旦、私は冷めちゃった。冷めたけど、また引きこむ力はありました。

で、うっかり感動しちゃったのだけど、いやいや、これって、何。と、また思ってしまったり。ほとんど記述のないことが、大きなきっかけになっているって言うのは、深層心理でなにかあるのかしら。
それって、ひきこもりと似た現象なのか、などと。

これから読む人に、ネタはバラしたくないので、これ以上は書けません。

2010/11/12