死に金

死に金

2021年7月24日

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「死に金」 福澤徹三 文藝春秋

福澤徹三という人を全く知らなかったのだが、確か「本の雑誌」の書評が面白そうだったので、試しに借りてみた。そうしたら、まあ、おもしろいったらないの。

基本、ヤクザの話です。悪いことをして大金を稼いだ男が末期がんに侵されて、溜め込んだ金の在り処をだれにも明かさない。それを当てにするいろんな人達が入れ替わり、立ちかわりやってきて・・・・。

主人公の男の最期は、私、あんまり好きじゃないんだけど、こういうのを美学だと感じる人もいるのでしょう。最終的に、きれいにおさめてある物語ではある。

「冷血」でも思ったけれど、稼ぎ方、身の処し方って、ちょっと間違っちゃうとどんどん間違った方向に行く。私はこの本を読んでいて、数年前に読んだ宮崎学の「鉄KUROGANE 突破者異聞 極道・高山登久太郎の軌跡」を思い出した。ヤクザの親分の半生記ね。

世の中には、表と裏があって、裏の社会では、表とは全く違う歴史が流れている。入試問題に、「金融恐慌の原因とそれへの対処」みたいな表の歴史が出されるのなら、例えば「この時の☓☓(地名)周辺の愚連隊の主なシノギは何に変わったか、またそのきっかけと、その変化を決意した人物名は?また、その集団は後に何組に集結されたか?」みたいな裏の歴史問題だって、同じ重みで出されてもいいような気もする。しないか。

ともかく、お金は社会の裏側でも流れている。違う流れ方をしているだけで、お金の価値は同じ重みを持っているものね。そして、お金のために、みんな死に物狂いになるのも同じ。

ここ数年の間に、なんでもお金なんだなあ、と何度も思った。原発も、災害対策も、みんなお金だ。贅沢も、人の生死も、みんなお金だ。

でも、お金だけじゃない。ということだって、私は知っている。私たちは知っているはずだ。そんなことを考えながら、読み終えた。

2013/6/17