人間・始皇帝

人間・始皇帝

2021年7月24日

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「人間・始皇帝」鶴間和幸 岩波新書

年末からお正月にかけて、秦の始皇帝の中華統一の過程を描く「キングダム」40巻を読みふけったことは前に書いた。中国史を勉強しているところだったので、タイムリーだった。更に、購読誌「本の雑誌」2月号の特集が「全日本評伝グランプリ!」であり、そこでこの本が紹介されていた。これは読むしかないではないか。

岩波新書なので、薄い本ではあるが、中身はずっしりと重い。今まで始皇帝といえば、司馬遷の「史記」の記述を元に人物像が想定されてきたが、70年代以降、中国の地下・・・多くは古井戸の中から発見された竹簡史料には、「史記」とはまたちがった始皇帝の歴史が記されていた。この本は、史記やその他の従来の資料と新史料を引き比べながら、新たな始皇帝像を描こうとしている。

キングダムはかなり娯楽的に描いているけれど、それでも人物が混乱することがあるくらいなのに(私だけ?)この本は、漢字だけ、字面だけで人名がじゃんじゃん登場するので明確に理解しながら読むのはなかなか難しい。おおよその理解で読み進めると、時々人物混乱に陥って、死んだはずの人が生きていたり、裏切ったはずの人が味方だったりして訳がわからなくなる。

本文が終わった後に、人名録と年表が載っており、おお、これに気付いていたら、もっと読みやすかっただろうなあ、と悔やんでしまった。これから読む人は、参照しつつ読むことをおすすめする。

「人間・始皇帝」を読み進めている合間に、東京国立博物館の「兵馬俑展」に行った。これはなかなか面白い体験だった。実物の2分の1サイズの兵馬をかたどった人形がずらりと並ぶ。表情が非常にリアルで、生きているような、どこかにこんな人がいるような気がしてならない。二千年前のことが、目の前に手に取るように感じられるって、すごい。平成館では日本の埴輪や土器なども並んでいて、同じ時代に日本はまだこんなだったんだなあ、としみじみ思う。

それにしても、この本を読んでしまったので、「キングダム」でこれから何が起きるかわかっちゃったのは、なんだかちょっと残念でもあるなあ。

2016/2/15