わたくしたちの成就

2021年7月24日

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「わたくしたちの成就」茨木のり子 童話屋

 

前回の日記にも書いたとおり、先日、某図書館の講演に行った。家からはバスと電車を乗り継ぐ場所にある。少し早めに行ってその近くにある美味しそうなお蕎麦屋さんでお昼を食べようと思ったら、なんと漏水事故による休業であった。仕方なくとぼとぼ歩いていくと、驚くほどたくさんのラーメン屋に出会った。ラーメン屋、ラーメン屋、ひとつおいてまたラーメン屋、といった具合である。その合間には美容院ばっかりあって、この町に住む人は髪をきれいにしながらラーメンばかり食べるのか、と思った。
 
空いてそうなラーメン屋さんに入ると、今話題のベッキーの色紙がかかっていて、おお、この子も難儀なことよのうと思いながら赤く辛いラーメンを食べた。それから図書館に向かいながら、どこかでコーヒーでも飲もうかと思ったのだが、珈琲屋はどこにもなかった。相変わらずラーメン屋と美容院があふれていた。
 
雨と風まで吹いてきたので、早々に図書館に入って、書棚をさすらった。まあ、こういう時間は嫌いじゃないし、いくらでも過ごせるし。と端から眺めていて出会ったのがこの本である。
 
茨木のり子は大好きで、ほとんどの詩集は読み尽くしているつもりだったのだが、これは知らなかった。アンソロジーなので中身は知っているものばかりだったが、手に取りやすい大きさといい、可愛らしい表紙といい、章の編み方といい、そして、編まれた詩の数々の素晴らしさといい。うっとりしてしまった。
 
表題にもなっている「わたくしたちの成就」は「急がなくては」という詩の中にある言葉である。
 
あなたのかたわらで眠ること
ふたたび目覚めない眠りを眠ること
それがわたくしたちの成就です
辿る目的地のある ありがたさ    (引用は「わたくしたちの成就」より)
 
結婚二十五年にして早世された夫を思って書かれた詩だ。辿る目的地のあるありがたさ、である。これがわかる歳になってしまったのだなあ、と嘆息する。夫に先立たれ、残された日々をしゃっきりとして、姿勢正しく生きた茨木のり子。目的地があればこそ、臆することなく怖がることなく前を見ていたのだろう。生きるということは、死に向かっていくことではあるけれど、だからこそ日々は美しい。しみじみと読み返す本であった。

2016/2/24