冷血(高村薫)

2021年7月24日

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「冷血」高村薫 毎日新聞社

トルーマン・カポーティの「冷血」へのオマージュとして書かれた作品。手に入れるのにすごく時間がかかりました。

そもそも人が死ぬ作品は苦手なのに、一家四人が惨殺されることを知っているもんだから、せっかく手に入ったのに、なかなか読む気にならなくて、何やってんの、私!!と自分に苛ついてしまいました。

でも、読んだらやっぱりすごいです、高村薫。カポーティとはまた違うアプローチ。あっちはたったの40ドルのために一家四人が惨殺された話。こっちは、キャッシュカードで大金は手に入れたけど、別にお金が欲しかったわけじゃないし、憎しみや妬みといった動機があるわけでもない。しいて言えば、歯痛が原因・・・・。

この、歯痛が原因って、どんな理由だ?と思いそうな事実が、描写に描写を重ねて、真実味を帯びてくる。歯が痛いということが、どんなふうに人生を損ねるか、その歯痛がどこから生まれてきたのか、が事件に深く関わっていることが、最後の方で明らかになって、おお、なるほど、と思ってしまいました。

彼らを追う刑事、合田雄一郎の人間像もまた秀逸です。結構文学的で情もあって、それでいて真実味もあって。

それにしても、読んでいくうちに、惨殺された四人のことはすっかり忘れて、二人の犯人にのめり込んでしまった私です。どうしてこんなにも犯人側に加担するのだろう、私ってば。

2014/4/5