ペコロスの母に会いに行く

「ペコロスの母に会いに行く」岡野雄一　西日本新聞社

伊藤比呂美さんの著作で知ったのだったかな。認知症で施設で暮らすお母さんについて、もうハゲてしまった息子が描いている漫画です。

酒癖が悪くてお母さんを困らせ続けた、亡くなったお父さん。お母さんが認知症になってから、よくお母さんを訪ねてきて、あの頃は悪かった、生きているうちに謝ればよかった、と話してくれるようです。二人で散歩に出かけることもある。どこまでが夢でどこまでが現実か分からない物語の流れが温かくて、心がゆるくほどけていきます。

息子のことも、弟だと思ったり、主治医だと思ったり、かと思うと鮮明に息子だと理解したり。その時その時で理解は変わるけれど、いつも温かなお母さん。

介護には苦労も苛立ちもあるだろうに、優しい眼差しで描かれています。

「親を施設に預けているから、介護してるとはいえないんです。」と作者は伊藤比呂美さんに言ったらしい。「それも、介護です。」と答えた伊藤さんの言葉が、ずーっと彼の心のエネルギーになっているそうです。

我々のような中年のおばさんが集まると、話題はだいたい決まっています。老眼になっただの、血糖値や血圧が高いだのの健康の話。それから、老親の介護の話。子育てに悩み、我が子の受験に苦しむ時代を乗り越えると、今度はここへ来るのね、としみじみ思います。私はまだそっちのほうからも足が抜けてないんですけどね・・・・。

老親の介護は深刻な問題です。自分の健康問題よりも重大事であったりもする。皆、押しつぶされそうになりながら、なんとか立ち向かっています。この本は、そんな私たち中年おばちゃんに暖かい光をくれる本かもしれません。

いつか、私もこんなおばあちゃんになるかもしれません。こんなおばあちゃんならいいかも。なれないかなあ。こんな人徳もないなあ・・・。