さくら

さくら

2021年7月24日

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「さくら」西加奈子 小学館

西加奈子さんは直木賞作家。私はこの人の小説は読んだことがなかったけれど、料理エッセイの「ごはんぐるり」が面白かったので読んでみたくなった。

「さくら」は長い長い年月の物語だ。主人公は、今は大人だけれど、彼がごく小さい頃からの回想がずっと描かれている。イケメンで優しくて素晴らしくかっこいい兄、優しい母、がんばる父、きれいな妹。愛情あふれる家庭の歴史。けれど、どこかでそれが崩壊することが、一番最初に暗示されている。

読んでいて私はアーヴィングを思い出した。そうしたら、西さん、アメリカ文学が好きで、アーヴィングに影響を受けたって言ってるじゃないの、あらまあ大当たり。一番衝撃を受けたのはトニ・モリスンですって言うけど、その人は私、知らないからまあいいや。

アーヴィングと似ているのは、ものすごく衝撃を受けたり、感情が乱れ乱れていることも淡々と普通に流して描いていることかな。でありながら、読んでる方にはけっこうなインパクトがある。あるけど、どんどんそれはそれとして読み流すというか、読み続けるしかないような感じ。いや、人生ってそういうものですから、とどこかで思わずにはいられないような。

すごく出来のいい兄がどうなっていっちゃうかというところで色んな感情が渦巻いて、反感を持つ人も多いだろうなあ、と思う。思うけど、私は受入れる。こういう人、いるもの。嘘じゃないもの。

とてもきれいなのにそれを価値と思わない妹の行動のほうが、私にはちょっときつい。途中でああ、これは、と気がつくんだよね。結構ヘビーな問題が山盛りになってる物語なのに、なんてさらっとしてるんだ!でも、これをヘビーに描かれたらたまらないな、とも同時に思う。

配慮が足りなかったり、一歩間違えたらある種の人をギッタギタに傷つけそうなことをためらいなく描いているのは、若さなのか、それとも気がついていないからなのか。ぎりぎりのところで、これはセーフなんじゃないかと思うけれど、この微妙なラインは計算じゃ出せないよね、とも思う。(いや怒ってる人はいますよ、きっと。)だとしても、私は許せる、好きだと思う。そんな、ある意味あぶない物語だった。

2015/4/23