タルト・タタンの夢  おいしいミステリなら、好き。

タルト・タタンの夢  おいしいミステリなら、好き。

2021年7月24日

「タルト・タタンの夢」近藤史恵

レストランが舞台の、しゃれたミステリ小品集です。題名が、レストランのメニュー形式になっていて、どれもおいしそうなことこの上ない。食べたいっ!ああ、全部、食べたいっ!

何でこの本が気に入ったかって事と、私がそもそもあんまりミステリを好まない理由がいっぺんにわかりました。

人が、死なないのよ。

なーんだ、そんなことだったのね、と目から鱗。

同じ作者の「サクリファイス」という本も、昨年秋に読みました。そういえば、どっちも夫のお勧めだったわ。そのときのパルティオを引っ張り出してみましょう。

*       *        *

「サクリファイス」近藤史恵

ミステリ・・・なんだろうなあ。全く知らない作者名だし、題名にひきつけられるものも感じないし、強力に勧められなければ、絶対に手に取らないだろう本。

夫が、「ぞくぞくした。ラストで、背中がぞくぞくしたんだよ。」と言いながら、帰って来ました。時々、こういうことがあります。彼と私の好みは微妙に食い違っていて、たまにしか合致しないのですが、こういう勧め方をされた時は、たいてい当たりです。今回も、大当たりでした。

20年も前に、ツール・ド・フランスのドキュメンタリーを見たことがあります。興味なんてないのに、たまたまTVを付けたら番組が始まって、見るとは無しに見ていたら、すごい勢いで引きずり込まれました。

自転車レースって、面白いです。駆け引き、戦略、レースの組み方。ただ、走ってるんじゃないんです。チームで、いろんな役割分担があって、対抗するチームとも紳士的な分担や、やり取りがあって、極めて頭脳的、知的なレースです。アシスト役の人間は、徹底的にエースを補助し、自分が生きることが滅多にありません。でも、それがものすごく重要な役割を果たすのです。だから、ひとつのレースは、いろいろな人間ドラマを含んでいます。チーム対チームだけでなく、チーム内でも、さまざまな葛藤や交流が、あからさまにレース内容に反映されていきます。

という、ある程度の知識があったから、面白かったのか、それとも、何も知らなくても、面白いのか、どっちなのかな、と少し知りたい気もします。

自分がゴールに駆け込むことよりも、アシストすることに喜びを感じる主人公の心境に、なんとなく共感するものが私にはあります。トップに輝くことに、何か、空虚感がある。それがどうした、という妙な諦念があって、そんなことよりも、違うものをほしくなってしまうのです。・・なんて。トップに輝くなんて事と無縁の私が言っても、傲慢なだけですが。

サクリファイス、という言葉の意味が、最後にひしひしと伝わります。ラストの数ページは圧巻です。このために、全ての物語はあったのか、と心が揺さぶられます。

面白かったです。

2008/2/28