ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

2021年7月24日

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「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」

ブレイディみかこ 新潮社

 

本屋大賞 2019年ノンフィクション本大賞だって。リクエスト本があっという間に手に入るこの街の図書館ですら結構待たされたから、人気なんだと思う。たしかに面白い本だ。
 
日本人の著者とアイルランド人の配偶者の間に生まれた息子がイギリスの元底辺中学校で過ごす日常を描いた作品。人種差別、貧困差別、性差別、様々なナショナリズム、考え方、立場、宗教の多様性の中で、一人の男の子が成長していく。困ったことも、変なこともたくさんあるけれど、子どもが育つってすごいなあ、と思う。いろんなことを吸収して、考えて、楽しんで。子供の目は、時に鋭く、時に切ない。
 
古臭い差別感を振り回す級友を逆差別する子供たちのエピソードはなんともほろ苦い。先生たちが、あの子の価値観をなんとかせねば、と考えていることがわかると、彼は子供たちの間で悪認定されてしまって、表立ってではなく、SNSの中で密かに否定されまくったりする。自分が正しい側に立っていることを確かめるかのように、差別者をみんなで否定する、その事によって新たな差別、いじめが起きる。
 
「・・・・人間ってよってたかって人をいじめるのが好きだからね」という著者に、息子は「僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。・・・・・罰するのが好きなんだ」と言う。その言葉にはっとした。たとえば、誰もが叩いていいとされた人物を、ネット上で誰もがうれしそうに叩く。虐待した父を、それを止めなかった母を、殺せ、同じ目に合わせろ、と叩く「善意に満ちた」人たちが、私は怖い。その感じだ。誰かを罰する立場に立つのは、そんなに恍惚なのか、と思う。そんな感覚をこの子は見て取ってわかってるんだなあ。
 
これは、イギリスのその中学校だけの話ではない。日本のごく当たり前の日常にも、そこらへんの学校にも同じように当てはまる話が書かれている。中学生たちにも読んでほしいなあ。で、本気で本当の気持ちで、感想文を書いてほしい。それを、読んでみたい。

2019/11/15