ひみつのしつもん

ひみつのしつもん

2021年7月24日

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「ひみつのしつもん」岸本佐知子 筑摩書房

岸本佐知子は翻訳家で、彼女が訳した、というだけで、その面白さはちょっと保証される。例えば「楽しい夜」とかね。その他にも「『罪と罰』を読まない」で三浦しをんやクラフト・エヴィング商會と組んでるし・・・と書いていて、気がついた!この「秘密の質問」の装丁も装画も、実に洒落てるよなあ、誰だろう、と思ったらクラフト・エヴィング商會じゃないか。やっぱり仲良しなんだなあ。で、この本は「なんらかの事情」の続編でもある。あれも非常に奇妙な、面白い本であった。

この人のなんともおかしな奇妙な面白さは、どう説明したらいいんだろうね。

例えば、歌舞伎を見にいくでしょう?あんまり歌舞伎は詳しくないから、ちゃんと筋とか役者とか、予習していく。すると劇場で、何列か前に、半袖白いTシャツの白人男性が座っているのを見つける。やがて演目が始まるのだが、あの二人の白人はこれがどういう話かわかっているのか、と気になってくる。で、試しに頭の中で説明を試みるのだが、なかなかうまくいかない。そうこうするうちに、いちいち「あの二人の目にはどう見えるのか?」に捉われるようになる。頭の中で、「おいボブ、あれは靴なのか、箱なのか?」と片方が花魁の足元を指して聞く。「それを言うならサム、彼女の頭から軍艦みたいに突き出している棒は一体何なんだ?」「それに男はみんななんで頭の中央部分を剃っているんだ?宗教上の理由か?」頭の中の二人がうるさくて、芝居に集中できない。

休憩をはさみ、踊りが始まると例の二人は現実にはもういなくなっているが、もう手遅れだ。頭の中にはボブとサムがもう入り込んでいて、目と脳を乗っ取っている。ボブサム目線で見る「奴道成寺」は超前衛舞踏である。白塗りの人物が男になったり女になったり、頭を青くピカピカに塗った白装束の人々とジルバを踊ったり、チェリーブロッサムの枝を手に襲いかかってっくるショッカー的な軍団を手を触れずにバタバタ倒す。

それはまあいいとして、困るのは、歌舞伎が終わって何ヶ月も経つのにボブサムがまだ帰ってくれない。

・・・というような感じ。といえばわかるだろうか。なんか、変に共感しちゃうんだよね。

2019/11/8