この世にたやすい仕事はない

この世にたやすい仕事はない

2021年7月24日

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「この世にたやすい仕事はない」津村記久子 日本経済新聞出版社

 

いやはや、津村記久子は素晴らしい。と、この人の著作を読むたびに思う。ごく普通の当たり前の世界を描いているように見せかけて、異世界を描く。職安の相談員に紹介された短期の仕事をしている、それだけの話なのに、もはやこれはファンタジーの世界なんじゃないか、と思えてくる。
 
この人は、仕事で苦労していることを基盤においているのかなあ。作品には、仕事に一生懸命になってバーンアウトしてしまった人が登場することが多いんだけど。この作品も、一番最初の仕事で十二年間頑張ったんだけど耐え難くなってやめてしまった主人公が、失業保険が切れちゃったので、いろいろな仕事に短期的に関わっていくというそれだけの話だ。
 
その仕事というのが、どうやったらこんなこと思いつくんだ?と思うほど一風変わっていて、ありえないものばかりなのだ。でありながら、物凄く詳細で、リアルで、こいつ絶対この仕事してたよな、と思わせるような迫力がある。しかも、そのリアルさの中に、どうしても笑っちゃうエンタメ性がしっかり含まれている。
 
登場する人物も、淡々としていて特にスポットを当てられていない人ばかりなのに、ものすごく印象的だ。そして、好きになっちゃう。変な奴だけど、好きだな、と思うような存在感が一人一人にあるのだ。
 
いろいろな仕事を経て、主人公はある結論にたどり着く。それがまた、いい。たやすくない仕事ばかりだけどさ。これからの人生に幸あれ、と言ってあげたくなる。
 
楽しくて、不思議で、いい小説だった。おすすめ。

2016/8/19