まぶた

まぶた

2021年7月24日

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「まぶた」小川洋子 新潮社

 

図書館にはよく行くが、大抵は受付で予約の本を受け取って、後は雑誌コーナーに座り込んで何冊か雑誌を流し読みして帰ってしまう。たまに書棚を眺め歩くと、知らなかった本たちがおいでおいでをして、私を誘惑してやまない。たまにしか歩かないのは、そうでもしないとただでさえ読むべき本が山積みになっているのに、それがさらにうず高く積み上がってしまうのを恐れてのことだ。が、今回はうっかり書棚を歩いてしまって、そうしたら、控えめに、けれど確実に私の目を捉えて、「借りて行ってね。」と言い渡されてしまったのが、この本だ。
 
小川洋子は、初期に苦手感を持ってしまったために読み落とした本がまだたくさんあって、これもその一つだ。2001年の発行だから、あらまあ、下の子がまだ幼児の頃だわ、などと個人的な歴史を振り返ってしまう。
 
十数年前から小川洋子は小川洋子であって、微細なものに固執し、彼女独自の世界を持ち、静かで密やかで、やや不気味で、でも美しい。表題作は、珍しく色っぽい話なのかと思っていたら、違う展開になっていって、おお・・・と思ってしまった。
 
短編集なのだけれど、ああ、これは閉ざされた塀の中で育ったあの兄弟と同じ世界だわ、とか、これは、謎の競技場が出来上がるのを不思議に思いながらじっと見守る村のある場所だわ、とか、いろいろな他の物語を思い出すものが多かった。
 
小川洋子は、独特だ。その独特さ加減が、どうにも癖になって、ついついまた手を出してしまう。すごい作家だ。

2016/8/13