ベルリンは晴れているか

2021年7月24日

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「ベルリンは晴れているか」深緑野分 筑摩書房

本屋大賞ノミネート、直木賞候補、大藪春彦賞候補、「このミステリーがすごい!」第二位、「週刊文春ミステリーベスト10」3位、「ミステリが読みたい!」10位 ですって。でも、それ、全然知らなかった。ただ、「本の雑誌」だったかな、「読書は人生を変えるか」みたいな特集でこの本が挙げられていた。何しろ、ケストナーの「エーミールと探偵たち」がプロットになっている、とあったのだもの。それだけで借りちゃったのだ。

実は「鏡の背面」も同じ特集きっかけで読んでいる。あれも、ピッピとかナルニアが人生を変えるきっかけになる、なんてことを書かれていて読んだのだけど、たしかにその二冊は登場したけれど、でも、殆どはもっとディープな話だった。しんどかった。

で、この本である。この本だって、確かに「エーミールと探偵たち」は重要なキーワードになっているけれど、全然楽しくはない。何しろ、戦時下、戦後のドイツが舞台だもの。人は残虐な方法でじゃんじゃん死ぬし、酷い目に遭うし、痛いし、怖いし、無茶苦茶だし。こんな本読んだら怖い夢見るわ、としか思えない。本来なら読みたくない部類の本なのだけれど、何しろ、新幹線の中で、これ一冊しか読むものがない、という状況に追い込まれていたのでね、読んじゃった、読みましたよ、はい。

出来は非常にいい、というかぐいぐい読める。飽きないし、引き込まれるし、登場人物が全員カタカナの外国名なのに、ちゃんとキャラが立っていて、ひとりひとりの見分けがついて覚えられる。私みたいな物覚えの悪い人間が、最後まで人物を追いかけられるのだから、優秀だわ。だけど、ものすごく残虐だし、怖い。

ドイツはユダヤを憎み、ロシアを怖がり、ロシアはドイツを憎み、イギリスやアメリカはドイツをいたぶり、ユダヤは恨みを忘れない。だけど、みんなそれぞれに一人ひとりの人間は、痛みを知り、喜びを知り、愛し合ったり大事に思い合ったりするただの人間でしかない。ということが本当によく分かる。戦争が怖い、愚かしい、ということも、ひしひしと伝わってくる。

ナチスドイツ下でユダヤ人や障害者や「劣っている」とされた人々がどんな風に扱われたか、がリアルに描かれていて恐ろしいほどである。だけど、それが、今の日本に重なって見えて、なんとも怖い。ポピュリズムが蔓延し、人を何らかの要素をもとに一括りにしてヘイトしたがる今の日本の姿に重なって、とても怖い。

当時のドイツ人がヒトラーを盲信したように、今の私達が誰かを盲信したりしないように、みんな、気をつけて。ほら、耳障りの良い、自分だけを持ち上げてくれるような言質に耳を傾けないで。騙されないで。と、言いたくなる、そんな本だった。

2019/2/25