G FILE 長嶋茂雄と黒衣の参謀

G FILE 長嶋茂雄と黒衣の参謀

2021年7月24日

「G FILE 長嶋茂雄と黒衣の参謀」 武田頼政

私が野球を好きだったのは、中畑やクロマティが現役だったころから、せいぜいイチローがオリックスでばんばん打っていた時代だ。それ以降、ぷっつりと野球への興味はなくなってしまった。長嶋の現役も、監督時代も、興味がほとんどぶつかることはなかった。だから、長嶋茂雄という人は、ほとんど神の様に崇め奉られているけれど、私にはそういう感覚はない。

この本を読むと、野球ってなんてドロドロしたものなんだろう、とあっけに取られる。興味を失った後も、それなりに選手の動向などは、ニュースや新聞を通じて耳に入ってきていたから、ここに書かれている事は、私がオンタイムで知っていたことでもあるはずだ。にも、関わらず。裏側に、恐ろしいほどの陰謀が渦巻いていたとは。

長嶋茂雄より、私はむしろ一茂の方が気になった。あまり頻繁には登場しないけれどね。長嶋と言う人に、父性はない。全てを犠牲にしてでも、ジャイアンツの栄光をまっとうすることが彼の生きがいであり、家族はそれに踏みにじられてきた。あれほど偉大な人の家族なのだから、仕方ない、という人間がこの日本には大勢いるだろうけれど。

桑田もまた、父性の欠如に苦しめられた選手だったことがわかる。あの、何を考えているか良く分からない爬虫類のような表情の理由が、なんとなくつかめてくる。

歴史に、驚くべき裏側があるように、野球にも、こんなどろどろの人間関係があり、陰謀があり、名選手や企業人や政治までもが巻き込まれている。そして、それに翻弄される人々がいる。

その中で、しっかりそれを見据える人が、家庭人であったりもすることに、はっとする。選手の存在が、そのあり方が、育った環境に既定される事実にも。歴史書も、お気楽読書も、子育てに関わる重い本も。読んで来た全ての本が、どこかで繋がりあって、私に向かってくる。そんなことにまたも気がつくこの一冊だった。

2007/4/14