倒壊する巨塔

倒壊する巨塔

2021年7月24日

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「倒壊する巨塔 アルカイダと9.11への道」
ローレンス・ライト 白水社

うー、やっと読み終わった。二週間かかったぜ。いや、おもしろくなかったわけじゃないのよ。おもしろいの。ただ、アラブ人の名前って、なんてわかりにくいの!!ウサマ・ビンラディンはさすがに知ってるけど、アフマド・サイイド・ハドルとサイナブ・アフマド・ハドルの違いとか、ジャマル・ファドゥルとサイフ・アドゥルの見分けとか、そもそも、サイイド・クトゥプと口にするだけで、舌が絡まりそうだし。浩史とか雅治とか、もっとわかり易い名前にしてよー!とイライラしてしまった。

私たちは、イスラムについて、何も知らない。あ、私たちといってはいけないのか。少なくとも、私は何も知らなかった、とつくづく思った。世界中にはイスラム教徒がこんなに溢れているというのに、まるで、アジアの一部とアメリカとヨーロッパ諸国だけで世界が成り立っているような気持ちでいたことが、改めてわかってしまった。

分厚い二冊の本、それも訳の解らん名前の羅列と付き合いつつではあったが、読みきるだけのことはあった、読んでよかった、と思う。あの、気が狂ったとしか思えない恐ろしい事件が、どのようにして起こっていったか、そして、アメリカはそれをどこまで追い詰めながらも逃してしまっていたのか、ある程度は、分かった。ある程度は、というのは、やっぱり読みが浅かった、と自己批判しているのであって、この本を読むと、かなり確信には近づいているのだなあ、と思えるのだが。

ただただ不気味なだけのビンラディンという男も、一人の人間であった。ただ、飛行機に乗ってビルに突っ込み死ぬだけの人生の終わり方を選択した若い男達も、なぜ、そんなことを選んだのか、論理として理解はできるようになる。

それにしても。人は、何を求めて生きるのだろう、と改めて思ってしまう。石油資源に恵まれ、苦労しなくても富が手に入る環境にあっても、人は幸福にはなれない。そして、殉教という死に憧れ、こがれる若者が大量に現れさえする。

神という存在は、恐ろしい。絶対的価値は、人を硬直させる。神を冒涜するものは、殺してもいい、という教義が現れる。そして、その人物が神を冒涜しているかどうかを判断する力を持つと言いはる人間もまた、必ずどこかに現れるのだ。

生きる喜びを、私達はどこに感じ、どこに求めるのだろう。笑い合い、楽しみあい、歌い、踊り、愛しあうことを「堕落」とする宗教は、一体何を人生の喜びとするのか。そこから、死や殺しへの渇望が生まれるのではないのか。ごく当たり前に生きることを愛して生きる、そういうことを大切に思えるかどうかは、どこで決まるのだろう。

何かもっと根源的な、そして実はとても当たり前なことが失われている。そんな気がしてならない。

ビンラディンと、彼を追うFBIのジョン・オニールという二人の男を追跡したこの本は、長くて大変だけれど、読む価値は確かにある。どんな事件も、そもそもは、ごく普通に生きるごく普通の人間が起こしているのだということが、改めてわかるからだ。

2011/12/19