姉の島

姉の島

25 村田喜代子 朝日新聞出版

村田喜代子が好きだ。この人の書くものは、どうしてこんなに胸に響くのだろう。

この本は、「エリザベスの友達」のように老人たちを扱った物語である。村田さんもお年を召して、老人を描かれる。それがまた、年を取ってきた私には身に染みる(笑)。

五島列島の海女たちの話。昔からそのあたりの浜では、八十五の齢を超えると倍暦と言って齢を倍に数える習わしがあるという。爺にはない。浜でその年まで海女をやり切った女だけが倍暦になる。八十五歳は百七十歳になるのだ。

海女たちの言い伝えでは、「こじき」や「にほんしょき」で天皇は倍暦で数えられている。ジンム天皇は「にほんしょき」では127歳、「こじき」では137歳。昔の話だからこれくらいのズレはどうでもいい、らしい。ジングウ皇后が三韓征伐に行かれた時、海の神さまの安曇の磯良が水先案内をした。皇后はそのお礼に海で働く海女に倍暦を与えた、という。

倍暦の百歳越えの海女たちが海女小屋に集っては海の地図を描く。戦後、アメリカによって沈められた潜水艦の沈んでいる場所や、七草の美しい名前の付いた海の山や、歴々の天皇の名のついた山の名前、カジメやアワビのあふれる場所・・・。

海女たちは海の中で様々なものを見て、様々なものに出会う。死んだはずの兵士たち、潜水艦の霊、米兵の霊さえも美しいと感じ入る。現実と幻影がまじりあって、どこまでが本当かわからない世界が広がる。そして、倍暦の海女は、沈められた潜水艦を探しに行く。深く深く潜り、クジラの声を聴き、潜水艦に出会う・・・。

海に生きる海女たちの生き生きとした姿に引き込まれる。すぐそばに彼女たちがいて、楽しげに話し、そして海に飛び込んでいくのが見えるようだ。生と死すら境目が判然としない波と水の世界。村田喜代子はいつだって不思議な世界をそのまんま描き出す。