6 山田静 双葉社
電車の中で読み本が尽きてしまった。本読みの恐怖の一瞬である。ところが、夫が購入していた電子本がスマホにあるではないか。というわけで、自分で選んだ本ではなかったのだが、読んでみたら非常に面白かった。夫、偉いぞ。
もともとトラベルライターだった著者が、思いがけなく京都の町家旅館を始めることになった。開業するまでのあれこれや、開業後のドタバタ、そしてそれらを通じて知った京都の奥深さ。コロナ禍で外国人旅行者がいなくなった今だからこそ、この話が身に染みる。京都、観光客多すぎだよ、と旅館を営む人間が言いたくなるほど混みあっていた京都が今や懐かしくさえある。いやいや、空いているに越したことはないけれどさ。私も転勤で一時期、京都府民だったことがあるので、観光シーズンの京都がどんなに大変かは知ってはいるしさ。
一見さんお断りなんて言われているけれど、京都の職人はそれぞれに親切だという話は確かにそうだと思う。でも、いけず(意地悪)もあるのよね。この町家旅館だって「鉾もたたない場所だからやってみたら」みたいな言われ方をしたというし。鉾もたたない、とは、祇園祭で鉾が立つような街中ではないので、京都とはいえ、そこは京都ではないしね、みたいな意味合いなんだそうだ。・・という流れで井上章一さんの「京都ぎらい」が紹介されていて面白かった。ついでにグレゴリ青山の京都本も紹介されていて、うれしい。
海外の観光客が京都を楽しみ、銭湯を喜び、日帰りで金沢や広島にも行く姿が楽しそうに描かれている。なんだかんだ言って日本を好きになってくれたらうれしいよね。B&B仕様の宿だから、近所の気軽なおでん屋さんを紹介してあげると、すごくおいしかったといわれたりするのもとても素敵。外国人を毛嫌いしたり、一部の国だけに目くじらを立てる人もいるけれど、互いに理解し合い、文化を尊重し合い、仲良くなれるなら、それがいちばんだと思う。同じ人間なんだもの、きっと分かり合える。そんな風に希望が持てる、良い本であった。