もう生まれたくない

もう生まれたくない

5 長嶋有 講談社

実は私、高所恐怖症です。高いところは全然だめだし、テレビで見るだけでも膝が笑う。高いところにいる状態を想像するだけで、スーッと背筋が寒くなる。

この小説、高いところから転落する話がいくつも出てきます。ああ、なんでこんなの読み始めちゃったんだ、と思いましたね。坂井泉水、臼井義人。トムラウシ山遭難事件なんかも登場します。転落死以外にも、不慮の事故死がいくつもいくつも。ジョン・レノンやダイアナ妃、スティーブ・ジョブズ、リッキー・ホイ、シルビア・クリステル、桜塚やっくん、笹井芳樹、などなど。いろんな人の死が取り上げられています。

つまり、人は何でもなく生活しているけれど、すぐそばに実は死の影がいるんだよ、という話なんですね。だからこそ、今を大事に生きたいと思えるような小説ではあるし、それはもう、しみじみと伝わっては来るのですが。

身近で人が死んだとき、死ってこんなに普通のものだったのかと思ったものです。何か特別なことじゃない。同じような生活の日々の中で、ただ、その人がいなくなるだけ。世界は何も変わらない。そんな実感が、この物語の中にはリアルにあります。

そういえば、息子がまだ小さいころ、突然とても真剣な顔で「みんないつかは死んじゃうんだよね。そう思うととても怖い。」と言ってきたことがありました。わかるよわかるよ、お母さんも同じように思ってこわくなったことが何度もあるからね、と言ったものでした。一緒に考えよう、と思いました。

お母さんも死んだことがないから、死んだらどうなっちゃうかはわからない。わからないことって怖いよね。だから、お母さんだって怖い。だけど、生まれた順番から言って、きっとあなたよりもお母さんのほうが先に死ぬんだと思う。だから、お母さんは先に死んだら、あなたが死んだときに困らないように、死んだ世界であなたが安心していられるように、ちゃんと準備して、それからその時が来たら、あなたが迷ったりしないでお母さんのところに来れるように迎えにも行ってあげる。だから、心配しないでいいんだよ。ただ、そのためにはお母さんより先に死んではだめだし、お母さんが準備できるだけの時間が必要だから、お母さんが死んでもすぐに後を追っちゃダメなんだよ。ゆっくり自分の人生を生きてから来なさいね。

みたいなことを言った覚えがあります。その話をこのお正月に久しぶりにしたら、彼はちゃんと覚えていました。まあ、私の戯言が役に立ったかどうかはわからないけれど。

というわけで、この本を読むと、人は死ぬ、必ず死ぬ、と思い出させられます。ですが、それが怖いだけでもないなあ、とも同時に思えるところはあります。そういう意味で、割といい本だったなあ、と思う私です。