12 宮部みゆき 角川書店
「よって件のごとし」の続編。三島屋変調百物語としては九巻目。江戸は神田三島町にある袋物屋の「黒白の間」に人を一人招いて語られる話をひとつ、聞くのもひとり。語って語り捨て、聞いて聞き捨て。それで語りては思い出の荷を下ろすし、聞き手はその荷を黒白の間に収めて二度と口にしない。
毎回、少し恐ろしく、でもきっと人の温かさも感じられるような話が語られている。今回も、極悪非道の悪人もいれば、人を助け守るような不動尊や神様もいる話が語られ、そしてその時の流れの中で、かつての聞き手だったおちかちゃんに、かわいい女の子が産まれもする。この物語はきちんと時が流れ、登場人物も巻を重ねるごとに歳を取る。それがまた、良い手ごたえとなっている。
今の聞き手の富次郎は、食いしん坊でおいしそうな料理やお菓子が時々登場する。それがつらく厳しい物語に柔らかい味を加えもする。食べ物は人の心を和らげる。
針のような雨が降る話があった。人の身体に穴が開くほどの鋭い雨である。高校時代、雨が降ると休講になってしまう数学教師がいたのを思い出した。あの先生のワイシャツは紙で出来ているんだ、だから雨だと来ないんだろう、と私たちは噂していた。だから何だというのだけれど、そのことを何度も思い出しながら読んだ。
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