あしたの君へ

あしたの君へ

2021年7月24日

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「あしたの君へ」 柚月裕子 文藝春秋

「検事の死命」以来の柚月優子である。今度は家庭裁判所調査官の新米くんの成長物語である。5つの事件を集めた短編集。

貧困シングルマザーやモンスターペアレント、モラハラに親権問題など。現代的なテーマを扱っていて、表層的な理解しかできていなかった主人公が当事者や周囲の人と接する中で真実に目覚めていく姿を描いている。

と言っても、短編だから、やっぱり掘り下げ方は浅い。モラハラ言動のボイスメモだけで調停員の心証が一気に変わるなんて、そんなに世の中甘いもんじゃない、と思ったりもする。調査員がただの離婚問題にそこまで立ち入って調査するってのもあんまり現実的じゃないし。それでも、主人公の人物像やここで書かれていることには好感を持つし、そうだそうだとも思う。

「真実の10メートル手前」もこの本もそうだが、信頼できる主人公の登場する、軽くて、最後にきちんと解決の付く短編集は、実家への行き帰りの電車にはとてもありがたい。どこでも読む始め、読みやめられるし、心が重くもならなず、ちょっと気分を変えられる。こういう本を幾つか用意してから電車にのるのはいいな、とつくづく思った。電車って、読書にはもってこいだ。

2017/1/28