小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代

小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代

2021年7月24日

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「小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代」阿古真理 新潮新書

「男子ごはん」という番組が好きで、ずっと見ている。国分太一と、かつてはケンタロウ、今は栗原心平が料理を作り、一緒に食べるという番組である。くしくもこの二人の料理家は、小林カツ代と栗原はるみの息子たちである。この番組では、料理が義務あるいはするべき仕事としてではなく、あくまでも楽しいこととして捉えられている。時に趣味に走り、時にオーソドックスになり、時に飲むための料理となったりもする。その振れ幅もまた、変化があって良い。

この本は題名こそ二人の料理研究家の名があげられている。が、実は戦後すぐからの様々な料理研究家一人一人にスポットを当て、彼らがどのように料理と取り組み、紹介してきたかが語られている。それらを通して、ひとつの歴史が提示されている。全く期待していなかったが、最後の方では、まさに私の好きな「男子ごはん」が大きく取り上げられ、かつ、もう一人私の好きなコウケンテツも登場する。なかなか楽しい。

戦前の食生活は、今ほどバラエティに富んだものではなかったらしい。とりわけ庶民の生活は、ご飯に味噌汁、お漬物、ちょっとした野菜の煮物や魚の干物、豆腐や納豆があれば十分といったところだったのだろう。毎晩違うメニューが食卓にのぼる様になったのは、割に最近のことなのだ。そうした多様な食事の内容に寄与してきたのが、「きょうの料理」をはじめとするテレビの料理番組や、各種雑誌の料理レシピコーナーを担当してきた料理研究家の人々だったである。

外交官夫人だった人のセレブな料理、母親から受け継いだ伝統的なおふくろの味、コルドンブルーで学んでフレンチの応用、などなど、それぞれの料理家はそれぞれの経歴によって各種の方向性を持っていた。いま脚光を浴びている男子ごはん系列は、創作的な「ケ」の料理が中心となっているが、本格派の辰巳芳子や土井善晴のような、丁寧な、日本の風土に根ざした料理家もまた健在である。

食べることは人生の基本である。家庭料理が目指すのは美味しさだけではない。子どもの成長を助け、家族の健康を支え、疲れを回復させ、よく眠り、よく出し、元気を出し、体と気持ちを満たすものだ。それを支えてきた人々を追うことは、まさしく大事な歴史の一部を明らかにすることでもある。そう思える一冊であった。

2016/8/2