日本魅録3

日本魅録3

2021年7月24日

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「日本魅録3」香川照之 キネマ旬報社

「日本魅録2」を読んだのは、もう十年前のことなのね。震災の年だったわ。今頃、続編を読みました。2007年から2009年までの出来事が書かれた、映画にまつわる香川照之の日記。

この頃はまだ半沢直樹なんてやってなかったし、さらに言うなら歌舞伎役者になる直前までの記録ということになる。写真を見ても、若いわ。他の役者も、みんな若い。

やっぱり最大のトピックスは映画「劒岳・点の記」の撮影秘話。何しろ、30kgはある荷物を背負って役者たちが九時間、山道を登り続け、やっと目的地について、それからが本番というとんでもない映画。天気待ちでずっと山小屋にこもったり、過酷な登山で体中ぼろぼろなのに、すぐさま着替えてメイクして撮影、それがボツになったり。本当にスタッフが滑落して脳挫傷を負ってしまったり。これは映画じゃない、業だ、と言い合ったというけれど、本当ね。

その他にも、正岡子規の最期を演じるための壮絶な減量の話とか、とんでもない演技を要求するボン・ジュノの話とか。次々見たい映画が出て来る。私、本来は映像派ではないのだけどなあ。そういえば、この本の二巻のあとには「ゆれる」と「ディア・ドクター」を見たんだったっけか。

香川照之は、過剰な役者である。過剰さ加減は、演技だけではない。日記を読んでいるだけで、その過剰さは行間から溢れ出し、たぷたぷと読者を浸し、湿らす。笑っちゃうほど、巻き込まれちゃうのだ。

震災から十年経ちました。あのとき、小学校の卒業式間近だった娘が、今や大学の卒業式間近。時は経つのですね。関西にいた私達は、現実の生活は何一つ変わらないのに、同じ国に恐ろしいことが起きて、ひどい目、恐ろしい目にあっている人が大勢いる、という現実に引き裂かれる思いでした。あの日を忘れてはいけない。今もなお、原発はコントロールなどされていない。その現実を、私達は見据えなくてはいけないと思っています。

2021/3/11