淳子のてっぺん

2021年7月24日

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「淳子のてっぺん」唯川恵 幻冬舎

登山家、田部井淳子さんをモデルにした小説。亡くなる直前、東日本大震災の被災者の高校生と行った富士登山がプロローグとエピローグに使われており、間に、女性だけで成功させたアンナプルナIII峰登頂とエベレスト登頂が描かれている。

「それでもわたしは山に登る」で本人がリーダー論を展開していたが、田部井淳子という人は、異なる意見、価値観を持つ人々を一つにまとめ、それぞれを尊重しながら、グループの最も大事な目的のために取捨選択をし、トップとしての責任を取ることに優れた才能を持つ人であった。彼女のそういった長所がどのように培われていったのかが、この物語でよく分かる。女性だけで、今まで不可能だと言われていた山に登頂するということの困難、それを女性だけで成し遂げることの難しさが生々しく伝わってくる。

田部井淳子を支え続けた夫の素晴らしさにも頭が下がる。共に山を愛した夫婦であったからこそ出来たことだったのだろう。最後の富士登山は、現実には七合目で断念となったが、モデル小説であるこの本では、山頂に到達している。そこに、作者の暖かさを感じる。

真っ直ぐであること、夢を追いかけることの眩しさを教えてくれる本だった。
2017/10/23