それでもわたしは山に登る

それでもわたしは山に登る

2021年7月24日

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「それでもわたしは山に登る」田部井淳子 文春文庫

 

昨年の10月にお亡くなりになった田部井淳子さんの本。若い頃の山の思い出から、乳がんになった話、再発した話など。すごい人だったのだなあと思った。
 
乳がんの手術の10日後にはバルト三国の最高峰に登った。抜糸がまだなのでホテルのシャワーで消毒し、ガーゼを替えたという。
 
腹膜ガンが発覚した時点で余命三ヶ月を言い渡されたが、抗癌剤治療を続けながらシャンソンのコンサートで歌い、講演やラジオ出演もした。それどころか、たまには山にも登る。抗がん剤治療の成果が出て病巣が縮小したところで手術。その後も、東北の高校生と富士山に登るプロジェクトに参加、高校生を励ましながら自分も途中まで登る。最後まで登り続ける人生であった。
 
前半の「山から学んだこと」という章はリーダーシップ論として優れている。グループの中で不平不満を言う人がいるときは煙たがらずにその人に近づいていくこと、認めること、それでもここぞというときにはきっぱりと言うべきことをいい、決断すべきを決断すること。たとえ理不尽だと思うことをいわれたとしても、相手を非難するのではなく、そういう相手にきちんと対応できる自分であるかどうかという視点に立つこと。責任を持つとはそういうことだなあとつくづく思う。
 
強い人だった。前を向く人だった。こんなふうに生きることができたら、と思う。なかなか難しいが。

2017/5/31