トリアングル

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2021年7月24日

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「トリアングル」俵万智 中央公論新書

 

2004年の本。図書館の棚でたまたま目が合ったので、借りてきた。最近はもっぱら書評欄で読みたい本を見つけてはネットで予約をかけてしまうので、書棚をうろつくことは珍しい。久々に回ってみると、こんな出会いもあるのだなあと改めて思う。
 
30歳を少し過ぎたフリーライターの女性が、酒場で知り合った音楽志望のフリーターと付き合うようになる。彼女には、その他に、長く不倫関係を続けていた年上のカメラマンがいた。・・・と書くと、なんだかドロドロの三角関係の物語のようだが、驚くほどさらりと爽やかに描かれている。それは、主人公に一切の結婚願望がなく生活感を求めず、相手に要求するものが極めて希薄だからこそ出来上がる世界なのだと思う。
 
仕事があり、収入があり、温かい家族が郷里にはいて、男性に求めるものはほんのわずか。自分一人で充足するものを十分に持っていると、こんな感じになるのだろうか。それにしても、二人の男性を違う形で大事に思い、そこに何の矛盾もないって・・・物語の中では不自然ではないが、現実として、私には分からない感覚だ。
 
ストーリーの進展にともなって、そこここに短歌がぽんと提示される。それがおどろくほどみごとだと思う。やっぱりこの人は、短歌の人だと思わずにはいられない。短歌がなかったら、ありふれた物語でしかないかもしれない。凝縮された濃い色合いが、そこにはある。
 
俵万智の子どもって、カメラマンの子だったんだ・・・なんて、週刊誌的な好奇心がウズウズしてしまった本でもある。どうやら昨春お亡くなりになった方のようだ。私はまた、てっきり、とある劇作家さんだとばっかり・・・ごめんね、誤解してて。・・・って、誰に謝ってるんだ、私。

2015/1/23