食べることと出すことと

2021年7月24日

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「食べることと出すことと」頭木弘樹 医学書院

 

皆様、新年あけましておめでとうございます。
本当は年末にいくつか書こうと思っていたのに、なんだかバタバタしているうちに年を超えてしまいました。なので、今回の本は、年末に読了したものです。
 
新年初っ端に、トイレで頑張っているゴリラの表紙でいいのか?とちょっと気になるところですが、この本は、あの方と同じ「潰瘍性大腸炎」という難病に罹患した人の闘病記です。患者の側からの、非常に率直で切実な訴えに満ちていて、はっとすることの多い、きわめて優れた闘病記です。
 
当たり前のことだけれど、病気の苦しみは、本人にしかわからない。わからないのに、わかったような顔をされること、そして、わかってもいないのにしたり顔で様々なおせっかいをされることの苦痛に改めて気が付かされます。
 
著者にとっては、とにかく食べることがあらゆる危険に満ちているのです。だと言うのに、人は、コミュニケーションにおいて「食べる」ことを重要視し続けます。ちょっとくらい大丈夫でしょう」「何も食べないとかえって良くない」などの「好意」の押し売りがどれほど患者を苦しめることか。元気そうに見せることを、どれだけ他者に求められるか。病気を心のせいにされることがどれだけ多いことか。
 
そうした、難病患者の孤独と苦しみについて、様々な文学作品の一節を引きながら、丁寧に説明してあります。そうか、そうだったのか、と目から鱗が落ちたり、そう言えば、病気で苦しい時は、そう感じたよな、と自分の中にもある病の孤独の記憶が引きずり出されたり。人間が病気になる、ということの真実が、見事に描き出された闘病記であると感じます。
 
病気の人も、そうでない人も、誰にでも読んで欲しい一冊だと心から思いました。

2021/1/6