みんなの道徳解体新書

2021年7月24日

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「みんなの道徳解体新書」パオロ・マッツァリーノ ちくまプリマー新書

 

「このごろの子どもたちは、自由をはきちがえていて、口先ばかりで実行がともなわない。また自由、自由とばかりいって、責任ということを考えない。これでは、放任の教育だ。」
 
と、まず本書の冒頭に書かれています。ありふれた意見だ、って思うでしょ。これ、実は1957年に出された「新しい道徳教育」からの引用なんだそうです。今から60年位前ですから、この道徳の教科書で勉強した子どもたちは60代から70代になっています。私たちが子どもの頃はもっと日本人はちゃんとしていた、と言いたがる世代ですね。
 
気をつけてほしいのは、この引用文は、道徳の教科書の著者である今井誉次郎さんが、こうしたありきたりな意見を否定するために引用した一文だということです。子どもたちが自由で無責任だという言い方は実際の子どもたちを知らない大人の偏見だと彼はバッサリ切り捨てているそうで。この今井誉次郎さんの書かれた「たぬき学校」を私は子供時代に何度も読んだものです。面白かったなあ・・・。
 
古代遺跡の中に「近頃の若者はなっとらん」と書かれていたというのは有名な話ですが、結局、いつの時代も大人は子どもを躾がなっとらんとか道徳的にけしからんとか言いたがるんですな。
 
日本の社会が悪くなったのは戦後の民主主義的自由教育のせいで、日本人の道徳心が低下劣化したからだ、と言ってる人たちが大勢いて、義務教育の道徳授業が強化される運びとなりましたが、何を言ってんだか・・・・と思います。この本を読むと、そう思うことの正しさと根拠がじつに明らかになります。道徳教育を強化したがる大人ほどいい加減でずるい人たちはいないということが、わかりやすく書かれています。この本、道徳の時間にぜひ読んでほしいなあ。
 
そのとおりだ、と納得する部分の多い本書ですが、そうだよなあ、と最も納得した部分を引用しておきます。
 
 日本の学校は、ともだちは多ければ多いほどすばらしいことだ、と教えたがりますが、ともだちなんて、数人いればじゅうぶんです。ムリをしてまでともだちを作らなくてもいいですよ。
 よのなかでほんとうに必要とされるのは、ともだちを作る能力ではありません。ともだちでない人と話せる能力なんです。
 お店の店員さんは、ともだちでもない大勢のお客さんと話ができなければ仕事になりません。災害が起きたあとには、ともだちでない人同士で助け合うことが大切です。ともだちしか助けない、ともだちでない人は見殺しにする、なんて区別をするようになれば、力づくでの奪い合いになるでしょう。
 ともだちなどという狭い枠に人間を囲い込むのはよくありません。ともだちを百人作れる能力よりも、千人の他人とお話ができる能力のほうが、ずっと価値があるのです。
 
    (引用は「みんなの道徳解体新書」 パオロ・マッツァリーノ より)

2017/5/17