桐島、部活やめるってよ

桐島、部活やめるってよ

2021年7月24日

91

「桐島、部活やめるってよ」朝井リョウ 集英社文庫

 

 
 
ひょんなことから、映画を先に見ました。吉田大八監督、キャストは神木隆之介、橋本愛、東出昌大などなどです。原作が有名なのは知っていましたが、その時点では読んではいません。なんとなく遠慮したい空気がありました。娘が見たいというので借りてきたけれど、どんな話なのかは全く知らずに見ました。
 
ここから先は大いにネタバレしますので、見る予定の人は読まないでください。
 
最初にネタばらししますが、題名にもなった「桐島」くんは最後まで出てきません。出てこない、というのがこの物語のキモのようです。
 
桐島はバレー部のエースのです。その桐島が突然姿を消します。バレー部は練習がだらけるし、部活の終わりを待っていたはずの桐島の彼女は苛つきます。この彼女は超美人で、みんなの憧れの的だったりします。でも、桐島と連絡が取れなくて、最後はキレたりします。
 
桐島の取り巻きの友人たちは、なぜ彼がいないのかがわかりません。桐島の親友のはずの野球部のヒロキは運動神経も勉強もなかなかの出来ですが、何かを真剣 にやる気にはならない。部活をサボってバスケで遊んでたりしますが、それがまたえらく上手だったりする。でも、どこかぼんやりと過ごしています。綺麗な彼 女もいるのに、それに熱中しているわけでもない。
 
そんなヒロキに憧れている吹奏楽部の部長も、なにもできません。ただ、遠くから見つめているだけです。ヒロキの彼女は嫌なやつで、わざとそんな部長の前でいちゃついてみせたりもします。
 
弱小映画部の部長が神木隆之介。彼はイケてないオタクの役です。周囲からは馬鹿にされるけれど、ホラー映画に夢中で、教師に止められても、自分たちで映画製作に乗り出します。なんともダサい作りなのがバレバレのホラー映画ですが、苦労しながらも作るのはとても楽しそう。
 
そんな彼らを遠目で見ているバトミントン部の女の子が橋本愛。彼女も本当はホラーが好きなんだけど、それは隠している。でも、映画館で神木くんに会っ ちゃったりするのです。神木くんは彼女に気があるんだけど、実は彼女は桐島の取り巻きの一人の男子と交際中。とはいえ、それは内緒なのです。女子はいろい ろあるからね、と。空気を読んで、いつも自分が不利にならないよう立ちまわるのが彼女のやり方です。
 
桐島がいないので、代わりにバレーの試合にでられることになった生徒を、桐島の取り巻きが馬鹿にしたりします。桐島が来た!と聞いて、彼らは慌てて屋上に走ります。でも、そこでは映画部がホラーを撮っているだけ。
 
最後まで桐島は出てこないのに、みんなが桐島を中心に回っています。スポーツ万能で、勉強も出来て、イケメンで、美人の彼女がいる桐島と、その取り巻き。
 
一方にはダサくてイケてない高校生がいます。空気を読んで、立場を保持する子もいれば、ダサいことは受け入れて、自分なりにやりたいことをやっている子もいます。そんな姿を淡々と描き出すだけの映画です。
 
たぶん、桐島とその一派が、いわゆるヒエラルキーの上である。が、それにどんな意味がある?というようなことを言いたかったのでしょう。でも、私には響か ない。だって、桐島がかっこいいとも、すげーとも思わないし、桐島の不在で右往左往する高校生たちの気持ちもよくわからないからです。いや、わからないという よりも、ちゃんとせーや、あんたたち、何ふわふわしとんねん、と思ってしまうだけ。
 
その一方のイケてない子たちの方は、まだわかります。でも、別にそれをかっこわるいとも惨めとも思わないし、かと言って素敵、とも思わない。そういうもんだよね、と思うだけ。高校時代なんてそんなもんでしょう、だから何?とおばさんは思ってしまう。
 
姿を見せない桐島の存在感がもっと圧倒的だったら、違う感想になったかもしれません。桐島の親友のヒロキのとりとめのなさが、まさにとりとめないだけで、 何を感じているかがうまく伝わってこない。何を感じていいかもわからないその状態こそを描きたかったのはわかるのですが、あまりにもわからなすぎて、つま らなくなってしまう。
 
一方で、空気を読むことに専念している橋本愛ちゃんも、自分を殺しすぎていて、受け取れるものが少なすぎる。いや、自分を殺すということこそが役どころなので、きっとちゃんとやっているのではありましょうが、それが、なんとも。
 
と書いていて思うのですが、結局のところ、私にはスクールカーストとかヒエラルキーというものそのものが、全くわからないのだな、と気が付きます。そうい う階級的なものから離れたところにしか私はいなかった。私の高校生活は、そういうものとはあまりにも無縁すぎたのかもしれません。
 
娘も、「なんだか何を言いたいのかわかんなーい」と言っていました。いっぱい賞はもらっている映画なんですが、我々としては、これは外れだー、なんて言い合ってしまいました。
 
 
ところが、原作は素晴らしいよ、という友人がいて、そこで読んでみました。なるほど、原作のほうが、一人ひとりに焦点があたっていてわかりやすい。それから、映画では、人物にある種の「評価」が成されていたのが、原作ではフラットな視点から描かれている、そんなふうに感じます。誰も彼もが尊重され、受け入れられている。そこを信じられると、私も物語の中に入る勇気が出てきます。今も昔も若いってことはめんどくさいし、恥ずかしいし、しんどいよなあ、と素直に思えます。桐島も、生きた人間なんだろうと想像できるし。
 
先に原作を読めばよかったかな、いや、原作だけで映画は見なくても良かったかも、なんて映画ファンには殴られそうなことを考えてしまった私です。

2015/10/23