危機と人類

2021年7月24日

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「危機と人類」ジャレド・ダイアモンド 日本経済新聞出版社

「銃・病原菌・鉄」以来のジャレド・ダイアモンドである。この人の著作はどれも知的発見に富んでいて、興味深く、惹きつけられる。もう八十歳を超えられたというけれど、どうか少しでも長く生きて良いものを書いていただきたい。

著者本人が個人的危機を乗り越えて人として成長していった過程を踏まえて、国家というものも、危機に瀕し、それをどう乗り越えるかでより良い未来を手に入れて来たのではないか、と彼は考える。様々な国家がどのように危機に出会い、それを乗り越えてきたかを、いくつかの要素から歴史的に検証し、最終的に人類のこれからを見据えている。

事例としてあげられたのが、ペリー来航以来の日本の明治維新、ソ連に侵攻されたフィンランド、軍事クーデターとピノチェトの独裁政権に苦しんだチリ、クーデター失敗と大量虐殺を経験したインドネシア、東西分断とナチスの負の遺産に向き合ったドイツ、白豪主義の放棄とナショナル・アイデンティティの危機に直面したオーストラリア、そして現在進行中の危機に直面するアメリカと日本である。日本は二回も取り上げられている。明治維新は評価されているが、現代の問題に関しては現在進行形で、ややネガティブに捉えられている面が多い。

フィンランドは、旅行して大好きになった国である。他のヨーロッパ諸国となにか違う雰囲気があったが、こんな歴史があったとは知らなかった。チリの歴史は、アジェンデ大統領の姪であるイザベル・アジェンデの著作を読んでいたから、なんとなくは掴んでいたが、こんなに丁寧には知らなかった。インドネシアの歴史では、デビ夫人がここにいたのね・・・と思わずにはいられなかったし、ドイツの問題は日本を振り返らずには考えられなかった。オーストラリアが、イギリスにこんなに心情的に寄り添っていることを、私は意識したこともなかったと思う。そんなこんなで各国の歴史を振り返るだけで非常に面白かったのだが、そこに描かれる危機と、その乗り越え方は、現代にそのまま通じるものがあるし、ましてやこのコロナ渦においては、何かまた新しい局面にあると感じざるを得なかった。

人類は似たような過ちを繰り返しているし、似たような克服もしてきている。これから私達がどう賢く振る舞っていけるかは、私達自身にかかっている。けれど、文字を読める人が今ほど多いときはなく、物を知ろうとする人も今ほど多いときはないのであれば、決して諦めずに過去を振り返り、分析し、本を書くことを諦めてはいけない、という作者の言葉は胸に響くものがある。たとえ私のようなちっぽけなブログの書き手であっても、何が正しいのか、何が間違っているのかを、過去と未来を見据えてよく考え、率直に表現することは、しないことよりはちっぽけな力になり得るのではないか、と思ったりもした。

2020/7/11