銃・病原菌・鉄

2021年7月24日

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「銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎 上

ジャレド・ダイアモンド 草思社文庫

 

 

夫に勧められた本。実は、まだ上巻しか読んでいない。下巻も手元にはあるが、図書館の期限が来てしまったので、返さねばならない。予約を入れ直しても、いつ手に入るかわからないので、とりあえず、上巻だけで感想をまとめておきたい。
 
この本は、世界に広がる地域格差を生み出したものは何か、という人類史の謎を解き明かそうとした本である。進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学など様々な学問の深い知見からのアプローチが実にダイナミックで面白い。ただし、翻訳が固すぎて読みにくいのが難点である。
 
この本を書くきっかけとなったのは、1972年7月、ニューギニアの「ヤリ」という男性と作者との会話である。ヤリは、ニューギニアから一歩もでたことがなく学校も、高校までしか行っていなかったが、優れた政治家で、賢い人であった。彼は、作者にこう尋ねた。
 
「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」
 
ニ世紀前まで、ニューギニア人は石器に似た道具を使い、集権的政治組織を持たない集落社会で暮らしていた。そこへ白人がやってきて、集権的政治組織を押し付け、鉄の斧、マッチ、医薬品、衣服、飲料、傘など様々な物資を持ち込んだ。白人はニューギニア人を「原始的」だとあからさまに見下した。
 
だが過去三十三年間、ニューギニア人たちと野外研究活動をしてきた作者は、彼らが西洋人よりも知的であり、周囲の物事や人々に対する関心も、それを表現する能力も上であると感じていた。人種による優劣という幻想を否定し、ヤリの質問に対する正しい答えを導き出すために、本書は書かれている。
 
地域格差は、直接的には銃や病原菌、鉄を始めとする技術、政治力や経済力の向上をもたらす技術を、ある民族は他の民族より先に発達させ、ある民族は全く発達させられなかったことによって起きている。だが、例えば青銅器は、ユーラシア大陸ではごく早い時期に誕生したのに、新世界では、かなりの時代を経てから、ごく一部の地域でしか登場せず、持たない人々もいた。それは、なぜなのか。
 
人類社会の差異に対し、生物学的差異に根拠を求める人種差別的説明を人々が信じ続けないために、詳細かつ説得力があり、納得出来る説明が必要である、と作者は考えた。それがこの本の動機である。
 
この本を読んでいる最中に、私はたまたまNHkのEテレ「100分で名著」でハンナ・アーレント「全体主義の起源」を見ていた。人種には優劣があり、劣った人種を絶滅すべきであるという恐ろしい思想が大量虐殺に繋がった経緯を改めて見た。それをなしたのが、平凡な、法的遵守を信じている陳腐な人間であることに、自分を含めた人間の本質というものへの恐怖を感じた。ジャレド・ダイアモンドが解き明かそうとしていることは、こういった恐ろしい間違いを二度と起こさないためである、と深く思い至った。
 
上巻は、古代史から始まり、平和的な民と戦う民との違い、スペイン人がインカ帝国を滅ぼした経緯、食料生産にまつわる謎、伝染病についてなどが書かれている。あらゆる学問体系に及ぶ解説は新鮮で躍動的とも言えるほど、興味をかきたてられるものである。
 
早く下巻が読みたい。と思いながら、今日、図書館に返却に行く私である。予約し直さなくっちゃ。

2017/9/27