パリのすてきなおじさん

パリのすてきなおじさん

2021年7月24日

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「パリのすてきなおじさん」金井真紀・広岡裕児 柏書房

 

かつて伊丹十三は、少年時代のある日、ふらっとやって来て、両親の価値観に縛られている自分に風穴を開けてくれる存在、それがおじさんだと語った。金井真紀はその言葉を引用し、自分はとりわけ風穴好きだったので、選おじさん眼が磨かれたと自負している。そんな彼女がパリ在住四十年のジャーナリスト、広岡裕児おじさんと組んで本を作ろうということになった。二人でパリを歩き回り、集めてきたおじさんを陳列したのが本書である。
 
おじさん一人ひとりのイラストが添えられていて、誰もが小粋である。最初は、おしゃれなおじさんのファッション本かと思ったが、そうではなかった。一人ひとりのおじさんのこれまでや、今現在の生き方などをじっくりと聞き出す中、浮き上がってきたのはパリを含むフランス、そして世界の歴史である。パリの同時多発テロ、アフリカからの移民、LGBT、ホロコーストを脱したユダヤ人の生き残り、タミル人にベルベル人、ボートピープル。出会う人の話を聞くごとに、様々な歴史が浮き上がってくる。そうだ、人々が生きること、それがすなわち歴史なのだ。
 
私はパリが嫌いだった。石造りの街は冷たくて、人々は、英語を全然聞いてもくれなくて、差別が厳しくて、どこがいいんだ、こんな街、と思った。たった一回しか行ってないけどね。でも、パリは、それでもいろいろなものを受け入れ、混沌としながら存在している。矛盾を抱えながらも前を向いている。こんなおじさんたちがいる街へ、もう一度行ったら、前より好きになれるかもしれない。そんな気持ちになる本だった。

 

 

2018/12/18