無脊椎水族館

2021年7月24日

101

「無脊椎水族館」宮田珠己 本の雑誌社

 

宮田珠己がクラゲやイカ、イソギンチャク、ウミウシなどの無脊椎動物を追って全国の水族館を見て歩いた記録である。彼は無脊椎動物が好きである。詳しいことは知らないし、知ろうも思わないそうである。ただじっと見て、そのへんな形と動きに呆れ、わけがわからんとつぶやきたいそうだ。そもそもが、現実とはわけがわからないものだ。無脊椎動物を見て、ふーっと肩の力をぬくと、ほっとするんだそうだ。
 
詳しいことは知らないと最初に宣言してあるが、その割にはたくさんの水族館を見てあるくだけで、結構な知識が蓄積されてしまうものだ。知らないうちに、望んでもいないのに、無脊椎動物に詳しくなっちゃっている作者である。だが、彼の求めるところは、ただただ、中年のおじさんが暗く過ごせる場所であり、へんてこりんな生き物に癒やされることである。変に元気になっちゃったり、そこが陽気な場所であったりしたら困るのだ。薄暗い水族館の中で、得体の知れない無脊椎動物を、じーっと見る。それだけを追求した本である。
 
たくさんの無脊椎動物の写真が載せられている。珍しいし、結構きれいだ。山形県の鶴岡市にあるクラゲに特化した加茂水族館の「コティロリーザベルクラータ」というクラゲなんて、私の誕生石みたいな紫の美しい色合いで、玄関に飾っておきたいくらいだ。串本海中公園の「ミナミイセエビ」の甲羅なんて、赤いハートマークがくっきり刻印されていてラブリーでさえある。いろいろな写真をボーッと眺めているだけで、中年のおばさんも一緒に癒やされてしまう気がする。
 
水族館に行って、暗い場所で、水槽をじーっと見て陰気に過ごしてみたい、なんて私もちょっと思ってしまった。若いカップルなんか、ぜったい来るなよ。

2018/12/5