うろん紀行

うろん紀行

2023年1月7日

4 わかしょ文庫 代わりに読む人

なんだこれ、と最初に思った。「わかしょ文庫」が発行所かと思ったら著者名で、「代わりに読む人」が著者名じゃなくて発行所名だった。これなに、と先に読んだ夫に訊いたら「書評みたいなもん」と答えた。実際には、いろんな本を読みながら、その本の舞台になったような場所を訪ね、そこで似たようなことをやってみる紀行文。そしてその中に、本の感想も書いてあった。

何かに似てる、と思い出したのが「旅する練習」だ。あれも一種の紀行文だったし、自分を少し突き放して自虐的に書く文体も似ている。もしかして、同一人物?とさえ疑ったが、あちらは三島由紀夫賞だし、男性作家だし、こちらは無名女性作家だし、どうやら違うらしい。この本も「旅する練習」みたいな痛い結末に至るんじゃないか…と余計な心配までしてしまって杞憂でありました、やれやれ。笙野 頼子「タイムスリップ・コンビナート」を読みながら海芝浦へ行ったり、永井荷風「墨東奇譚」を読みながら東向島へ行ったり、太宰治「富岳百景」を読みながら河口湖へ行ったり。って、読んだことあるの、太宰だけだわ(笑)。この人と私の読書傾向はほとんど重ならない。でも、読んだことのない本なのに、紀行文を読みながら、ごく個人的な感想というか、心情を読まされていくうちに、なんだかその本まで読んだような気分になっていくから面白い。そう、読書とはきわめて個人的な体験なので、その個人の体験そのものを見せられることで、そこで本を読んだことまでまとめて疑似体験できちゃうのかも。

最後にトム・ジョーンズの「ロケットファイア・レッド」のために大井町の人工サーフィン場に行って、冬のさなかに何度も水に落ちてガタガタ震える羽目に陥る。そして、なんかそこでいきなり、ぐいん、と世界が広がるような気持になる。読んだこともない本、やったこともないサーフィンで、ちょっと成長できたような気分が味わえる。読書って、そういうもんだよな、と思った。やっぱり本の話をするのは、いいなあ。