おわらない夏

おわらない夏

2021年7月24日

33
「おわらない夏」 小澤征良 集英社

著者は、指揮者、小澤征爾の娘である。出版されたのは、2002年のこと。当時、どこかので「勝ち組のお嬢さんの自慢話」みたいな書評を読んで、ふーん、と思ったのを覚えている。そのまま特に読みたいとも思わずにいたのだが、先日、中学の図書館で見つけて、なんとなく借りてみた。

確かに、恵まれたお嬢さんの輝かしい子ども時代の日記のような本ではある。そうではあるのだけれど、この本の中にある世界は、なるほど、幸せに光り輝いている。

私の大好きなリンドグレーンは、子ども時代が幸せなものであることが、何よりも大事だと言っていた。けれど、私は、振り返ってみて、自分の子ども時代が幸せに光り輝いていたとはあまり思えない。衣食住を与えられ、きちんと教育も受けさせてもらい、不自由のない生活であったことは確かなのだが、じゃあ、その時私は光り輝く時代にいたのかと問われると、どうしてもそうは思えない。まあ、そんなもんだろう。私が特別にわがままでほしがりというわけでもないような気がする。

ところが、ここに描かれた子ども時代は、どうだ。そりゃ時として嫌なことや困ったこともある。けれど、根底にはいつもわくわくする気持ちや、絶対に守られているという安心感や、自分の周りの者はみな、味方なのだという確信に満ちている。こんな文章を、本気でこれだけ書けるというのは、実はすごいことだ、と私には思える。やっかんだりひがんだりしている場合ではない。この世界に浸って、少しでも自分が味わえなかったその季節を、味わわなくてどうするんだ、という気持ちになってくるのだ。

読みようによっちゃあ、甘ちゃんのお嬢ちゃんの夏休みの日記なのかもしれない。でも、そんな読み方をしたらもったいない。中に入り込んで、自分も一緒に楽しんだらいい。そうしたら、ぜんぜん違う気持ちになれるかもしれないんだから。

2012/5/30