イカと醤油

イカと醤油

2021年7月24日

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「イカと醤油」つぶやきシロー 宝島社

つぶやきシロー。「ボキャブラ天国」を見ていた人なら知っているだろう。ATMで残金が少ないのを確認して、「今月、だいぶつかったからな・・・(「だいぶ使ったからな」→「大仏買ったからな」)」とつぶやく彼を覚えている。

そのつぶやきシローが2011年に出した小説。ダメダメ親父と、その親父をひたすら愛する小さな息子の物語である。

愛にあふれる物語とか、なんか感動しちゃうとか。そういう感想がたぶん多いんだろうな、と思う。でもなあ・・・。このダメダメ親父のダメっぷりが、あまりにもひどすぎて、それから小さな五歳の息子が、あまりに出来すぎていて、これは単なる都合のいい薄っぺらなファンタジーでしかないなあ、と思ってしまう。

子どもを主体的に育てた経験のない人間はこの物語を楽しめるのだろうし、物語ってそういうものかもしれないけれど、小さな子どもはこんなふうではない。だのに、そういうファンタジーを信じていい気分で生きている男は、本当に世の中にゴマンと生存しているんだよなあ・・・と思ってしまう。それは、とても苦い現実だ。

都合がいい時に都合がいいだけ構ってやればなついてきて、愛してくれて、決して見捨てない。そんな夢のような人間がこの世にいる、と思えることの喜びをこの物語が描いているのだとしたら、そんな幻想はくそくらえ!!と私は思う。そういう甘ったれの男がこの世には結構いることを知っているから、手放しでこの物語を楽しめない。いろんな現実を思い出しちゃうからね。

2017/1/15