エリザベス・テイラー

エリザベス・テイラー

2021年7月24日

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「エリザベス・テイラー」アレグザンダーウォーカー 朝日新聞社

「不時着する流星たち」の中にエリザベス・テイラーが登場した。正確に言うと、モチーフとして登場しただけ。エリザベス・テイラーと同じ足のサイズの思春期の女の子が、そのサイズを維持するために、爪が変色してもつま先立ちを続けるという、ややぞっとする話だ。だが、それを読んで、俄然、エリザベス・テイラーの生涯が知りたくなった。そう思わせちゃうのが、小川洋子である。

というわけで、図書館の検索機で「エリザベス・テイラー」のキーワードを入れてヒットしたのがこの本である。1994年発行。読み終えて気づいたのだが、この本が出たときに、まだ彼女は生きていた。

彼女は晩年、マイケル・ジャクソンと仲良しだったというけれど、だろうなあ、と思う。子ども時代からショービジネスに取り込まれて、ステージママとエージェントに管理され、同年代の子供と遊んだこともなければ、学校で学んだこともなく、ただ、驚くほどのお金だけは際限なく与えられ続けた。自分の行動が常に大衆に注目され、どこへ行っても追いかけられた。どんなに才能があっても、どんなにお金があっても、絶対に得られないものがある。その欠乏感は、人間の大事な部分に大きな影を落とす。

エリザベス・テイラーは十代の頃から結婚「し始めて」いる。最初の結婚相手はニック・ヒルトンというホテル王の息子、大金持ち。何かとお騒がせのパリス・ヒルトンの大叔父にあたる人なのかな。新婚旅行に出発する頃にはもう、うまく行っていなかったと言うからとんでもない。彼女は、結婚って、オーガンジーのエプロンを付けて座っていることだと本気で思っていたという。なんにも知らなかったのね。ただ、ママの言うとおりに動いていた女の子。結婚したって誰かが常に指示し守ってくれると思いこんでいただけ。だって、それ以外の生活がなかったのだもの。

それから彼女は俳優や映画監督や歌手や政治家と次々に結婚する。一番、長続きしたのはリチャード・バートン。彼とは離婚した後、もう一度結婚している。こんなに結婚しているのに、毎回、本気で永遠の愛を誓っている。真剣だったのね。でも、彼女にとっての愛って、常に豪華なプレゼントを送り続けることだったりするから。何かを与えられ続けていないと、不安になり、虚ろになる。本当に、病気にもなる。大変だなあ。

中年に差し掛かって、薬物中毒にもなるし、アルコール依存症にもなる。肥満にもなる。八回目、最後の結婚相手は、アルコール依存症のリハビリプログラムで隣の席に座ったかなり年下の男性。もう、お金やモノにとらわれる人生はやめると心に決めて結婚したみたい。この本はそこで終わってるけど、それはやっぱりうまく行かなかったのね。気になって調べてみたら、この本が出たあと、案の定、五年で別れている。だろうなあ、と思う。

才能があっても、誰にも負けない美貌があっても、それだけがその人を支えるとは限らない。何が人を幸せにするかも、その人次第だ。エリザベス・テイラーは、人生を雄々しく戦ったとは思うけれど、辛かっただろうなあとも思う。おっそろしいほどの贅沢な生活、とんでもない裕福な日々だったけれど。

多くを欲しがるよりも、今、自分が持っているものの中で、いかに幸せになるか、を考えていたいなあ、とただただ単純に思う。お金があればいいってもんでもないわ。

2017/7/23