シュガータイム

2021年7月24日

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「シュガータイム」小川洋子 中公文庫

 

二泊三日の旅に出た。一泊目は飛行機で徳島に飛び、大塚美術館を巡る。翌日、高速バスで三宮に出て娘の住居の視察。翌々日、新幹線にて帰宅。旅のお供の文庫本を三冊買った。その一冊目がこの本だが、出発の羽田に着く前に読み切ってしまった。
 
小川洋子の1994年の作品。23年前なのね。女子学生の失恋の話だ。と書いてしまうとごく普通の小説みたいだが、主人公は突然とんでもない食欲に取り憑かれる。そのきっかけになったのが、彼女がバイトをしているホテルのレストランのウエディング用の巨大アイスクリームで、それを片付けるために従業員が黙々とスプーンを持って口を動かし続けるのだ。彼女の恋人は不能で、近所に下宿してきた弟は小人症。後の小川洋子ワールドは、ここでもう十分に始まっている。
 
林真理子があとがきを書いていて、これが面白い。小川洋子は変だ、と彼女は看破していて、これがピタピタと当たっている。意地悪としか思えない書きっぷりなんだが、本当のことなんだもの、しょうがない、という感じである。そう、小川洋子の奇妙なワールドの原型がここにはちゃんとあるのに、本人は普通の青春小説のつもりで書いているのか!!と林真理子は呆れているのだ。それがツボにはまって、しばらく笑ってしまった。
 
小川洋子の書くものはへんちくりんだが、その変さ加減が実に心地よく、奇妙な質感の空気の中にどっぷりはまり込むと、しばらくそこから脱したくなくなる。それが、23年前にはもう始まっていたのね。と、改めて感心する一冊だった。

2017/8/7