トレバー・ノア

トレバー・ノア

2021年7月24日

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「トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?」トレバー・ノア 英知出版

 

アパルトヘイト時代の南アフリカには「背徳法」という法律があって、現地人と欧州人が性行為を行うのは五年の禁固刑に該当する罪であった。その時代にあって、現地の黒人である母親とドイツ系スイス人の父親の間に生まれたトレバー・ノアは、存在自体が罪の証であった。冗談ではなく、彼はその存在をひた隠しにされ、ある年齢に達するまでは、家の中に閉じ込められるように育てられた。
 
アパルトヘイトは、白人の五倍もいるけれど部族と言語が様々に分かれている黒人に、相互の言語を理解し合わない教育を与え、それぞれに異なる権利や特権を与えることで反目させ合い、互いに非難させ合うことで巧妙に「共通の敵」に歯向かわせない制度を整える巧妙さを持っていた。マンデラの釈放によってあたかも平和的にアパルトヘイトは崩壊したように見えたが、その次に起きたのは、黒人同士の血で血を洗う闘いだった。
 
トレバー・ノアはまだ35歳だ。そんな若さの彼が経験した、つい最近の出来事がこれなのかと驚いてしまうような現実が次々に描かれている。語学に長けていたトレバーは、英語で白人と会話できるばかりか、ズールー語やコサ語、アフリカーンス語などを駆使して様々な黒人と会話することができ、それが彼の身を助けてきた。
 
トレバーの母親はエネルギッシュな人である。罪の証となるとレバーを生むことをためらわなかったし、トレバーをぶちのめして育てたし、DV男と後に結婚して頭を撃ち抜かれた。そんな母親を、トレバーは一貫して愛し、感謝している。どうなの、それって、と私は密かに思ったのだが、それでも素晴らしい、大事な母親ではあるんだろう。
 
トレバー・ノアは、いま、アメリカを代表する政治風刺ニュース番組「ザ・デイリー・ショー」の司会に就任し、グラミー賞のプレゼンターも務めた。そんな彼が、自らが体験したアバルトヘイトについて書いたのが、この本である。その内部にいて、すべてを知っている人間が書いたからこそのリアリティと、そして朗らかなユーモアにあふれた本であった。

2018/9/19