オカマだけどOLやってます

2021年7月24日

81

オカマだけどOLやってます完全版」能町みね子 文春文庫

「ほじくりストリートビュー」以来の能町みね子である。野町みね子が、まだ男性だった頃、女性として生活していた日々のエッセイである。

今でこそLGBTの権利が認められるようになってきたが、少し前までは、性同一障害やゲイは常に差別の対象であり、蔑まれ、笑われる存在であった。だからこそ、そういう人々はある種戦闘的に、あるいは感情的に、または何らかの覚悟を決めてでないと自分のあり方をカミングアウトできないことが多かった。

だが、この本の能町みね子は、非常にナチュラルである。淡々として、そして誰も攻撃しないし、被害者意識も持たない。ただただ、自分のあり方を見つめ、驚きや不思議を持って受け入れ、なんとかつじつまを合わせる努力を淡々と行う。そこに彼女の素直な賢さを感じる。

女の子になる、ということは、こんな不都合があるのか、こんな努力がいるのか、こんな疑問が生じるのか、という発見と驚きがある。けれど、悲壮感はない。それは、能町みね子が自分という存在をそのまんま受け入れているからかもしれない。否定もしない、かと言ってがむしゃらに肯定もしない。ただ、もう少し生きやすくなるために、ただただ、やってみる。自分を少し離れたところから観察して、時に面白がったり、ため息を付いたりもする。その潔さ、賢さに、私は脱帽する。

男だろうが女だろうが、能町みね子は知的で個性的で人を面白がらせる視点を持った優れた書き手である。それがすべてである。彼女が女性になることで生きやすくなったのなら、とても良かったと思う。私は、この人の書くものを信用する。なんと賢い人だろうと感嘆する。

2018/10/22