ポンコツ一家

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109 にしおかすみこ 講談社

ボンデージファッションで「にしおか~、すみこだよ~!…ってのは、どこのどいつだ~い?あたしだよっ!!」という持ちネタの芸人、にしおかすみこ。彼女がブログに書いた家族の話が一冊にまとめられた。なんだか切ない本だった。

にしおかすみこには、ダウン症の姉がいる。父は酒好きでいつも酒浸り。コロナ禍で仕事が減り、久しぶりに実家に帰ったら、実家がゴミ屋敷になっていた。どうやら母が認知症になり始めているらしい。慌てて家を掃除し、料理をし、まったく風呂に入っていないらしき家族のために風呂を沸かす。だが、食べたことのないものだとタッパーごと捨てられたり、風呂に入らないと暴れられたり。

認知症の診断を受けに病院に母親を連れて行く。看護師だった母は、認知症のテストに何を聞かれるかを熟知しているので、今日の日付や居住地などと必死に暗記して診察に挑むが、生年月日を問われて今日の日づけを答え「それじゃあ生まれたての赤ん坊だ」と突っ込まれる。首相の名前を問われて「喉元まで来てる、頭の中には顔が浮かんでいる、頭を割って見せたいくらいだ」と言ったがために、「じゃあ、頭の中を割ってみましょう」とMRI検査を受けることに。MRI検査中に「シンゾー、アベだあ!まだ、間に合う??」と叫ぶ母。結果は初期のアルツハイマーであった。

母は愛情深い人である。ダウン症の姉が生きている間は自分も生き続けるといっている。にしおかは、手のかかる姉に母を取られた思いもありながら、母も姉も大事に思っている。もちろん、父のことも。風呂に入るのが嫌で、入れようとする母と格闘し、思い余って母を殴る姉。そんな姉を取り押さえて、にしおかが叱ると「お姉ちゃんにそれ以上手を出すと許さないよ!」と逆に叱る母。毛髪が禿げ始めた姉を皮膚科に連れて行こうとするにしおか。ストレスのせいだ、と断言する母と姉。だが、シャンプーしなさ過ぎて毛根がつまった結果だったと診断される。藪医者だとののしる母。

お腹を壊して部屋におもらしをする姉。汚れたパンツを振り回して怒る母。ウェットシートをつけないままワイパーで掃除しようとして、床に汚れを塗り伸ばす姉。それらを全部始末するにしおか。コロナ禍で仕事が無くて、バイトもして、芸人の仕事があるときは東京に出て行って、その合間にダウン症と認知症とアルコール依存症の世話をする。包括支援センターに相談しても、母が必要ないと断ってしまう。そんな日々。

要約するととんでもなくつらそうだが、あくまでも明るくユーモラスに描かれている。だからこそ、切ない。にしおかすみこは文才があるし、賢い人だ。これを書くことで、昇華しようとしているのが感じられる。

このままじゃどうにもならないから、いつかお姉ちゃんを施設に入れて、と、にしおかが口走ると、母親は鬼のようなことを言うなと怒る。お姉ちゃんみたいな人見知りが施設でやっていけるわけがない、私が生きているうちはそんなことを許さない、この子が生きている限り私も生きてるから、と。

施設に入れば毎日お風呂にも入れてもらえるだろうし、バランスよい食事もとって規則正しい生活もできるだろう。でも、たとえ何週間も風呂に入らずとも、汚い部屋に住もうとも、姉にとっては家にいて家族と生きることが幸せなのだろう。幸せって何なのか。決めるのは、本人だものね。

どうすればいいのかな、とつくづくと考えてしまう。みんなが幸せでいるために、誰がどんな支援をすればいいのか。一人動ける人がいると、その人にすべてがのしかかってしまう。たとえそれを本人が選んだとしても、それが本当に良いことなのか。もう少し楽になれる道はないのか。自分と高齢の母のこと、自分がもっと年を取ってからのこと、いろんなことも一緒に考えてしまう。そんな切ない本だった。にしおかすみこ、頑張れ、そして何かいい方法はないかしらね、と心から思う。