マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険

マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険

176 スザンヌ・シマード ダイヤモンド社

測ったら4センチの厚みがある、分厚い本。これはじっくり読まねばならんので、旅先がいいよなあと考え、しばらく温存していた。部屋で読むと気が散る本でも、旅先では集中して読める。空港の待ち時間とか、飛行中とか、列車の中とか。実際、旅のさなかに読み始めたら、面白くて止まらなかった。今回はこれで相当時間がもつなあと思って本の数を控えてみたのだが、結局足りなくて夫の持ち本を借りたりして(笑)。にもかかわらずキャリーバッグの重量オーバーで機内持ち込みを断られたりして、旅本の選定はいつも難しい。

作者はカナダの森林生物学者である。森には隠れた知性があり、木々は互いに助け合っている。母なる木、マザーツリーがその子どもたちを助け、命を守っている。それを、長い時間をかけて調査研究した作者もまた、母であり、自らの命の危機に瀕しながら子への愛情を確認していた。また、女性であること故に研究成果をないがしろにされる場面もあった。彼女自身の人生の歩みと、森や樹々の研究が重なり合い、ひとつの壮大な物語を作り上げている。

自然というものは、人間の小手先でどうにかなるものではない。カナダの森林局が勧めた安易な植林はうまく根付かない。それはがなぜなのかを彼女は突き止める。森林局のお偉方は、それが気に入らず、受け入れようとはしない。だが、時間が経つにつれ、彼女の調査研究の正しさは明らかになっていった。

読みながら、私はこの間旅をした屋久島の森を思い出していた。長い時をかけて作り出された森。根を包む菌類たち。張り巡らされたネットワーク。その中に、私たちも生きている。思っている以上に自然は奥深く賢く美しいのだ。

それにしても、こんな風に森や樹々を調べ、研究し続ける人が世界中にいるということに私は胸打たれる。世の中のあらゆる様々な分野に着目して、もしかしたらすぐには役に立たない、でもきっといつか何かの役に立つ、深い学問を掘り下げる人が大勢いて、その人たちの気づきが、実は世界を支えている。学問というものの尊さを忘れてはいけない。ああ、学術を軽視する今の日本の薄っぺらさよ!!と、実につまらない怒りに突き当たらずにはいられない現状に、私は悔しくなったのであった。